創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

ムッシュ 13

2008-04-03 09:02:27 | 創作日記
月曜日の午後8時。優はきっかりにやって来た。ダイニングに通す。ムッシュがお茶を運んでくる。
「ムッシュ、こんにちは」
「いらっしゃいませ、店長」
「店長はいいよ。優と呼んで」
「こんにちは、ゆう」
その日は、30分ほどして優は帰った。
「また、来てもいい」
「いいよ、この時間ならほとんどいる。いない時はメールする」
「ありがとう」
一週間に2回ぐらい優は来た。時々泊まっていく。一つしか布団がないので、彼は寝袋を持ってきた。私は吹き出した。私とムッシュは寝室で眠り、優は書斎で眠った。書斎のパソコンは寝室に移した。二つの部屋はダイニングに面していて、手洗いに行く時お互いの部屋を通ることはなかった。部屋の個別性は保たれていた。
私は彼のことをなんにも知らない。結婚しているのか、子供がいるのか、何も知らない。年令さえ知らない。私達は向かい合う。相手が何者かは関係がない。前にいる人が彼だ。私が知っている以外の彼を知りたくない。私達は向かい合い、とりとめのないことを喋る。テレビのニュースだったり、新聞だったりする。私達の間にセックスはない。だから、向かい合うことが出来る。優は時々朝ご飯を作る。おいしいというと、とても嬉しそうな顔をする。夜はムッシュと私は枕を並べて眠る。平穏な一日が過ぎていく。