創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

「ムッシュ」を書き終えて

2008-04-04 09:31:54 | 創作日記
最初を書いたときは、1回で終わるかなあと思っていた。2回目を書いて、最初を1に書き直した。5回まで書き続けて、やっと終わりが見えた。僕は多分、この短篇から、かなり長い物語を紡ぎ出すだろうと思う。キーワードは敦賀だった。去年と今年、2回通過している。賢明な読者はお気づきだと思うが、発想と言うより、書いているうちに、「2001年宇宙の旅」、デイブとハルの会話を思い出していた。読んでいただいた方に感謝します。

ムッシュ 14 最終回

2008-04-04 09:25:21 | 創作日記
春になった。私は春が嫌いだ。春は生殖のにおいに満ちている。性器である花は咲き乱れ、生殖を担う虫や鳥が飛び交う。なんていやな季節だろう。優と私とムッシュは一日中部屋の中にいた。珍しく休みが一致したのだ。テレビも一日中桜を映している。昼食後、私達にとっての事件が起こった。後片付けに動き出すはずのムッシュが動かない。二人はムッシュを見つめた。ムッシュが動かなくなった。
「ムッシュ」
語りかけても無反応だ。
「電池切れかなあ」
優が首をかしげた。
「ムッシュは電池で動いていたの?」
「さあ。でも、energyはfull だよ」
「死んだ」
私がぽつりと言った。
「死んだ」
優は繰り返した。私は少し泣いた。オブジェになってしまったムッシュを寝室に運んだ。優は私の肩を抱いた。私は目を閉じた。無数の桜の花びらが舞っている。優の涙が私の胸に落ちた。強いものに突かれた。気の遠くなるエクスタシーが私の全身を震わせた。二人は満開の桜の下にいた。優の身体が離れ、やがて、降り注ぐ無数の桜の花びらの中に消えていった。彼は私の身体にしるしを残した。生まれた瞬間に死が約束される「いのち」。
私はその命と一緒に生きていこうと思った。