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しかし、その最中はそんなことを1ミリも思わない。もっといい日が来ると思っている。
誰でもそうだと思う。
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実家が喫茶店をすることになり、母がカレーを作った。
ジャガイモごろごろのカレーではなく、本格的なカレーである。
作り方は母の秘中の秘であった。
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とにかく客に大好評で母は鼻高々だった。
喫茶店を開いたいきさつや、母が何故カレーを作ることになったのか詳しいことを僕は知らなかった。
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実社会の荒波にもまれていた。
学生時代の青臭い理屈は吹き飛ばされ、まさしく、
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そうして11月に挫折。家に帰った。することもなく日々を過ごしていると、三島由紀夫が死んだ。
4月の研修で車窓から市ヶ谷を眺めたことがある。あそこで自決した。
ある日、テーブルの前に腰かけてぼんやりしていると、
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「食べ」
母はそう言って、ちょっと後ろを向いて目頭を押さえた。
弟が盛んに言っていた母一流の「演技」だ。
僕が意気消沈ていたのは確かだった。でも、就職に失敗したからではなかった。
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母のカレーは美味しかった。
「おいしいやん。あほみたいに」
あほな息子は言った。
「せやろ、ものすごい評判なんやで。近くの会社の人がみんなカレー、カレーやねん」
嘘泣きの母は嬉しそうに笑った。
新しい事業(喫茶店)に自分の作ったカレーが好評なのがとても嬉しく、自慢だったのだろう。
母55才。僕24才。
今から思うと、
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