ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2013.4.20 やっぱり手の感触を楽しみながら引くのが好き!~舟を編む~

2013-04-20 18:12:06 | 映画
 三浦しをんさん原作、2012年度本屋大賞第一位となった「舟を編む」の映画を観た。
 まだ原作は読んでいないので、まっさらな気持ちでスクリーンデビュー。
 言ってしまえば新しい辞書を作るお話、という一言に尽きるのだけれど、そんなもののいったいどこが面白いのか等と仰るなかれ、2時間以上、時間を忘れて十分楽しむことが出来た。

 新しい辞書の名前は大渡海(だいとかい)。大きさは中型辞典、見出し語は24万語、編集方針は「今を生きる辞書」。果てしなく広い“言葉”の大海原を渡るための一艘の舟に辞書を喩えることから「舟」(辞書)を「編む」(編集する)というタイトルだ。
 私も辞書が好きで、寝っ転がりながら“読んで”いた口なので、もうそれだけ聞いただけでワクワクしていた。
 もちろん、用例採集、見出し語選定、語釈執筆、レイアウト、5校に至るまでの校正作業に15年間という気の遠くなるよう地道な作業。それは想像に余りあるものであった。私の場合を振り返ると、仕事で使う印刷物などせいぜいが3校どまりだ。

 やはり人は適材適所なのだと思う。
 人とのコミュニケーションが滅法苦手な主人公があのまま営業部にいたら、いったいどうなっていたかな、と。
 15年間という月日を一冊の辞書を作るためだけに・・・時には文字通り言葉の海に溺れそうになりながら・・・費やし、そして完成したらまたすぐに改訂作業にかかる。文字通り辞書に一生を捧げる編集者―真面目な馬締(まじめ)光也君:ニックネームは“みっちゃん”―が主人公。彼を取り巻く登場人物も皆愛すべき人たちだ。
 完成までの時代設定は(阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件のあった)1995年から東日本大震災前の2010年まで。携帯よりもPHSという小道具からその時代考証も懐かしく楽しんだ。

 息子の世代を見ていると、辞書は紙で、指でその感触(映画の中で主人公は“ぬめり感”と言っている。)を確かめながらめくって引くもの、というイメージは殆どないようだ。 電子辞書あるいはPCを使ってWikipediaというのこそ、彼らにとっての辞書のよう。
 けれど、私はやはり辞書は紙でないと、と思うアナログ派である。
 辞書を引けば、前後の言葉やその言葉が存在するページの位置から、見えない部分が広がってくる。そして、プラスアルファされたものが記憶に残っていることが必ずあると思う。けれど、電子辞書で引いた言葉は、それで終わり・・・のような気がする、余韻がないように感じるのは時代遅れだろうか。

 それは新聞のサイトでニュースを見る時も同じだ。
 やはり紙面をめくって、全体を見渡してからの方が見落としがないように感じる。サイトだと、興味のある部分をどんどん掘り下げて行く感じになるけれど、どうも片寄ってしまうように思えるのだ(これは先日、高校時代・大学時代の友人と別の場面で話した時にそれぞれ同感してもらえたので、あながち私だけの独断ではないようだ。同じ時代に生きたから、ということなのだろうけれど。)。

 このブログで触れたことがあると記憶している三浦さんの作品「風が強く吹いている」も映画を観てから一気に文庫を読んだ。
 残念ながら「舟を編む」はまだ文庫化されていないのだけれど、待ち切れない・・・。是非とも原作を読んでみたくなる作品だった。―言葉好きな方に限らず、お薦めです。

 おまけ。大渡海による【恋】の語釈
 ―ある人を好きになってしまい、寝ても覚めてもその人が頭から離れず、他のことが手に着かなくな り、身悶えしたくなるような心の状態。
 成就すれば、天にものぼる気持ちになる。
 
 ―みっちゃん、香具矢さんと末永くお幸せに!

コメント (5)
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