ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2015.10.28 末期がんは十把一絡げではない

2015-10-28 21:45:50 | 日記
 朝日新聞の医療サイトアピタルを見ていて、気になる記事があった。
 奥様を乳がんで亡くされ、ご自分もステージⅣの大腸がんとともにある、闘病記専門の書店を経営されている星野史雄さんの文章だ。とても頷けたので、長文ではあるが、以下、転載させて頂く。

※   ※   ※(転載開始)

末期がん患者と呼ばないで 星野史雄 (ほしの・ふみお) 闘病記おたくの闘病記(2015年10月27日)

「がん」の進行度(病期)を表す言葉に「ステージ」があることは、みなさんご存じだと思います。リンパ節や他臓器へ転移しているか否かで、五段階に分類されます。

 ある闘病記を読んでいたら、著者が「ステージは五段階」とだけ覚えていて、医師から「ステージⅣ」と告げられた時に、「まだⅣならば、末期の手前だな」と誤解したとありました。ステージは、ステージ0からステージⅣまでの五段階に分類されるので、Ⅳはどん詰まりになります。

 私が大腸がん(直腸がん)と診断されたのは2010年の8月、58歳になったばかりでした。トイレでイチゴジャムのような血便を目にして、近所のクリニックに駆け込みました。クリニックでは血液検査と内視鏡検査を行った結果、「うちでは手に負えない」と、その場で大きな病院への紹介状を書いていただきました。大腸がんであることは言うまでもありません。数日後に訪れた病院では、初診の日に入院日や種々の検査、手術の日まで決まってしまいました。後に「手術の日」だけ一日ずれるのですが、もう落ちこんでいる暇もありません。ただ、クリニックでの血液検査の結果、肝機能に少し異常があることが分かっていましたので嫌な予感がしていました。

 私は医療の専門家ではありませんが、闘病記専門のネット古書店を経営していましたので、闘病記を人一倍読んでいます。目を通さないと分類できませんから。集めた数は370種類の病名別に3400冊ほど。手元には大腸がんの闘病記だけで百冊以上あります。読んで分かるのは「大腸がんは肝臓と肺、更には腹膜などに転移する」ということ。一般的に肝臓に転移があると、予後が悪いということも知っていました。実際、「大腸がんが見つかり、肝臓に転移があって、手術が出来ないらしい」と言った知人は、がん専門病院で治療を受けたのですが、一年もたたずに亡くなりました。

 私自身は入院後に一週間かけて検査した結果、直腸がんで肝臓に二カ所転移があることが判明します。幸い肝臓の転移は手術出来る場所にあり、若い主治医に七時間かけて手術してもらうのですが、私は「余命一年くらいか!」と思っていました。

 一カ月の入院後、退院した翌日からXELOX(ゼロックス)療法とアバスチンという化学療法を開始します。当時女子大で非常勤講師をしていた私は、何とか講義を続けながら身辺整理を考えます。身辺整理といっても、私の最大の荷物は「本」。一部を新古書店に売却し、一部を廃棄しましたが、少しも減りません。減ったと思うと抗がん剤治療の合間に新古書店を巡り、また買ってしまうのです。

 ゼロックス療法を続けたものの、翌年2月には右肺にポチッと転移が見つかります。今度こそ「万事休すか」と、私は再度身辺整理を始めます。身辺整理といっても、(…以下、略。)

 右肺への小さな転移は内視鏡手術で取っていただきました。直後から、FOLOILI(フォルフィリ)療法という、大腸がんの抗がん剤治療では主流の化学療法を開始します。その後はCTでも異常は発見されず、経過観察が続いていたのですが、2013年の8月に再び右肺に多発転移が見つかります。多発転移した場合、どの部位のがんでも基本的に手術はしません。抗がん剤治療で抑えるのですが、やがて抗がん剤は効かなくなります。

 手術が出来ないということは今度こそ最期だと、私は三度目の身辺整理を考えます。身辺整理といっても、(…以下、略。)

 それ以降、使っていた抗がん剤が効かなくなるたびに「もう駄目か」と思うのですが、身辺整理は諦めました。減らしたはずの本は数カ月で元のもくあみ、もう「なるようになれ!」です。

 かくして五年が経ったのですが、私の場合は当初から肝転移が分かっていましたから「ステージⅣ」からの出発でした。いわゆる「末期がん患者」を五年以上続けていることになります。

 最近はがんで亡くなられた著名人が「ステージⅣ」と診断されていたとすると、一律にマスコミは「末期がんだった」と報じることがあります。これに反発して「ステージⅣをいちいち末期がんと言うな」という患者の意見を目にしました。

 確かに「ステージⅣ」といっても、そこには更に「病期」があります。患者の立場で大雑把に言うと(個人の見解です 笑)、まず「他臓器に転移があるが、手術で取りきれる」状態が「ステージⅣの初期」です。次に「他臓器に多発転移して手術出来ないが、抗がん剤で抑えている」状態が「ステージⅣの中期」。「抗がん剤が効かなくなってきた」状態が「ステージⅣの末期」でしょう。

 そもそも同じステージⅣでも「乳がん」や「前立腺がん」、「胃がん」、「胆管がん」、「膵臓(すいぞう)がん」では深刻度が違います。同じ胃がんでも、そのうちの10%程度という「スキルス胃がん」は、また別物です。

 私自身は大腸がんの「末期の末期」に近いのですが、「一律にステージⅣを末期がんと呼ぶな」というご意見は、なるほどと思えるのです。医学的なステージを詳細に明記するか、はじめからステージには触れないか、どちらかですね。

(転載終了)※   ※   ※

 確かに、遠隔転移がある場合はステージⅣ。ステージⅤまではないのだから、末期といえば末期なのだけれど、かといってステージⅣは十把一絡げに末期とは決して言えない、と常々私も思っていた。もちろんこれは私個人の見解、患者を続けてきての感想であることはいうまでもない。

 乳がんの場合、骨転移として遠隔転移が出現するケースが多い。けれど、骨に転移しても命に直結するわけではない。そのため、脳、肺、肝臓といった骨以外の臓器に転移した場合とは予後が大分異なる。だから、ああ、骨に転移した・・・、私はもうすぐ死んでしまうのだ、というのは全くの早計であると思う。
 実際に骨転移があっても、ホルモン剤を内服するだけで、抗がん剤投与することもなく10年以上穏やかにコントロールされている方も少なくはない。

 星野さんが書いておられるように、多発でなければ手術も出来るのだろう。大腸がんの肝転移で大きな手術を繰り返したジャーナリストの鳥越氏は今もお元気で活躍中だ。
 私は8年半前に再発が判明した時に既に胸骨、鎖骨、縦隔リンパ節、両肺多発転移だったから、残念ながら手術適応外。つまり星野さん流に言えば、「ステージⅣの初期」ではなかった、ということだ。
 けれど、これまで手を変え品を変え、8年半の間多種多様のホルモン療法、化学療法を続けて完全奏功はなかったもののそれなりに奏功してきたので、今がある。とはいえ、既に使ってしまって耐性がついた薬の方が断然多いわけだから、冷静に考えれば「ステージⅣの中期」から「ステージⅣの末期」に向かっているというのが正直なところだろう。
 といっても、これまた星野さんが書いておられるように、乳がんは比較的進行が遅いから、難治がんの膵臓がんや胆管がん、スキルス胃がんとは深刻さが異なるというのも事実だろう。

 それでも、ステージⅣだの末期だのという言葉は自分からは言ってみても、勝手なもので人から言われると、傷つくものだ。がん保険の勧誘の電話がしつこかった時には、「私は末期がんなのですが、それでも加入できるのですか」と聞いたりしてしまうが、それ以外の場面では自分から末期だなどと言うつもりはない。

 とにかく今を大切に生きること。今後どういう未来が待ち受けているかは神のみぞ知るだけれど、徒に将来を憂いてみたところでどうなるものでもない。体調管理をしながら今出来る治療を精一杯続け、心穏やかに潔く日々を重ねていくことに限る、と思うのだが、どうだろう。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする