ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2020.7.7 拝啓、ミレニアムの私へ

2020-07-07 20:53:49 | 日記

 昨夜のこと。夫が帰宅するなり「ごめんね、悪かった。」と言う。
 「???」そんなに丁寧に謝られる心当たりは全くない。
 「え?何のこと?」と訊くと、前の日の夜、私に「悲しくなっちゃった」と言わせたことだ、という。ああ、そういえば。でもそんなに深い意味があったわけではなく、殆ど忘れていたので、驚いた。

 夫が、息子が小さかった頃のビデオを見るのが好きだ、ということはこのブログでも何度も書いた。たまたま日曜日の夜、ろくなテレビ番組もなく、夕食後何をするともなしに昔のビデオを見ていたのである。普段は付き合わないのだけれど(時間がいくらあっても足りないので)、お茶を飲みながら珍しく時に大笑いしながら、時にしみじみしながら一緒に見ていた。

 2000年、ミレミアムの年、秋の頃のビデオだった。保育園の運動会、イベントに出かけた帰りにホテルでお泊り、七五三お参りの三本立てだったと思う。
 何を隠そうまだ30代である。今は亡き義母も父も70代、母に至っては60代で、あちこち旅に出まくっていた時代で、極めて元気である。50代の夫も白髪は全くないし、お腹もあまり出ていない。まだ痩身といえば痩身といえる体形をしている(今やよく言えばロマンスグレーの恰幅がいい人である。)。

 息子は4歳児クラス。言葉で説明すれば色々なことがちゃんと分かるようになっていて、子育ても大変というより日々面白くエキサイティング、仕事も超ハードなポストからやや落ち着いたポストに異動して少し余裕が出てきた頃。公私ともに極めて順調、幸せ一杯という時代のものである。

 見れば、赤ちゃんの時から一緒に転がりまわって遊んだ保育園のお友達の可愛い顔が沢山、ああ、○○ちゃんだ、○○君も、今、どうしているかしら。若いお父さん、お母さん、そして沢山お世話になった保育士の先生方の笑顔で溢れている。
 思いっきり息子とベタベタ、ギューッとし、親子競争では手を繋ぎ、父兄の出番では年も忘れて大ハッスルで走り回り、翌日の筋肉痛の心配もどこへやら、その雄姿を晒している。

 ああ、私、こんなに若かったんだ。(34歳、高齢出産前滑り込みセーフで出産したわけだから、20代でお母さんになったもっと若いお母さんたちに比べれば、決して若いお母さんではなかったけれど)。この4年ちょっと後に病を得、一生病院と付き合うことになる、普通の人より短い一生を終えることになるかもしれないことになる、とはゆめゆめ思わず、この世の春という感じの自分の姿が眩しく映る。
 
 七五三のお祓いも、某神社までジジババ含め一族郎党6名総出で、その後ホテルで会食したのは記憶にあるが、細かいことは殆ど忘れており、やけに新鮮だった。写真だと切り取られた瞬間は残っているけれど、その前後は見えてこない。やっぱりビデオ、撮っておくといいものである。
 新調したスーツに身を包み、ハイヒールを履いて、息子の手を引くお母さんの私。我ながらちゃんとしているじゃない、と思ったりする(自己満足ではあるが)。

 夫に「いや~お父さん、若いわね~、痩せてるわね~」と言うと、「お母さんも綺麗だったね~(過去形)」と。
 その時にふと漏らしたのが「ちょっと悲しくなっちゃった」という言葉だったのだという。もちろん今アラ還で病気治療中の私が、20年前の若くて怖いものなしの私に敵うわけがない(既にがんの種は身体の中にあったのだろうけれど)。けれど、時は残酷、もうあの頃には戻れない、とチラと思ったのは確かである。

 かといって、今が不幸だとは決して思っていないし、年を重ねることは全く悪いことではない。当時はわからなかったことが沢山わかるようになっているし、様々な経験をして人間力は多少は上がっている筈・・・。
 だから「悲しくなっちゃった」という言葉にそれほど重い意味はなく、さすがに容貌衰えたよね~トホホ、というくらいの嘆きだったのだ。まあ、ただでさえ寄る年波に抗えない中、色々な薬の副作用で身体を痛めつけているのも事実だから、肌だってなんだって、不可逆的な変化があちこちに現れているわけだ。
 
 そんな軽い気持ちで言った一言に夫は一日気持ちが塞いでいたという。それが帰宅後、私の顔を見るなり開口一番に出たわけで、「もうビデオ見るの、止めるよ。」とまで発展してしまった。
 いえいえ、そんなことはありません。あれから20年苦楽を共にし、ここまで支えてもらったのだから、今の私の風貌は決して哀しいものなんかではない。口幅ったい言葉でいえば、今の私の皺もシミもこの20年の様々な出来事によって得られた勲章に違いない。

 拝啓、20年前、ミレニアムの私へ。
 あなたはその後5年もせずに期せずして乳がんを患い、その後3年もしないで多発転移に見舞われ、以来、命ある限り治療とともに進むわけだけれど、決してその笑顔を曇らせることはない。あなたは不幸ではない、幸せにアラ還を過ごしているのよ、と言ってあげたい。

 本当は昨夜のうちに記事にしておきたかったのだけれど、昨日のとんでもなく高湿度な雨の日で体調はイマイチ。だるくて頭は重いし、夕食後はタリージェのせいか、眠くて眠くて。ソファでビデオを見ながら眠ってしまうこと2時間以上。その後ヨレヨレしながら入浴し、夜中に目覚めることもなく今朝まで普通に眠り続けた。痛みより眠気が勝ったのだから大したものだ。

 あんなに眠ったのにまだまだ眠い。今朝はあいにく痛みがぶり返し、ロキソニンとコデインを重ねて飲んで出勤した。治療まであと1週間余り。無事に日々が過ごせますように。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする