2020年2月21日(金)
御家族が突然の難病を宣告され、涙が止まらなくなって駆け込んできた女性は、この3週間ですっかり自分を取り戻した。「薬のおかげでしょうか」と御本人は控えめだが、そんなことではない、薬にできることなどタカが知れている。
初診時に必ず訊くことにしているストレス解消法について、この人は「映画館で映画を観ること」を挙げていた。最近何か観たか訊ねると、苦笑が浮かんだ。
「『パラサイト』を観たいんですが、新型コロナウィルスのことがありますから。」
治療法の関係で病人の感染抵抗力が落ちており、家族として細心の注意が必要なのだという。
定期的に処方を受けにやってくるお嬢さん、こちらは年配の御家族が洗面所で転倒し、あっけなく大腿骨頭を折ってしまった。幸い救急搬送から手術まで迅速にことが運び、リハ段階に進んだのだが、
「こんなこと言ったら、世間様に申し訳ないんだけど・・・」
入院した家族からメールやLINEで頻繁に指示が入り、希望の物品を調達するやら、交代で病院に持参するやら、留守宅組のストレスが募る一方であった。そこへ感染予防のため「不急の面会は原則禁止」と病院の発令があり、正直ホッとしたというのである。
久々のミルクワンタン、O君は『パラサイト』について「好きじゃないな」と一言。見終わった瞬間の気もちが良くなかったという。これは是非とも見ねばならないが、映画館に足を向けるのは当分やめておこう。学生の時分に映画を見に行っては風邪を引きこんだものだった。自分はともかく、現下の状況では患者さんに義理が立たない。
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