もう皆青年期でした。青春時代、私がそこまでに至るにはいろいろな経緯がありました。私にすると単純に皆もそうだと思っていたのです。人間正直者は馬鹿を見る、そう言った経験が私には有りましたから、皆もそれなりにそういった事が分かっている年代だと思っていたのです。私は真実を伏せていて下宿の友人に悪い事をしたなとちょっぴり後悔しました。そして、この時迄私も他の皆の風聞同様に捉えていた彼女が、あっさりしていて自己中心的なだけのタイプでは無く、そこまで私の事を心配をしてくれている面があったという事実に驚いていました。目の前の彼女から私の境遇を思う真剣な言葉を掛けられなければ、それは全く気付かないでいた事でした。
そうかと私は思いました。それではこれからは彼女達の事を信頼してなるべく正直に周囲の人と接した方が良いなと考えました。そして、私の事を気に掛けてくれて、それとなくアドバイスしてくれた彼女にしみじみとした感動を覚えました。そこで私も真摯な態度で了解したというような事を彼女に伝えました。彼女に向けて心底感謝の笑みを浮かべると、「本当に好きな人なら自分で言うわ。」真実は違うという含みを込めて言葉を返しました。「ありがとう、頑張ってみるわね。」と彼女の助言に素直に従う旨を伝えたのでした。
この時私はやはり彼女は他の友人とは少し違うと感じました。真面目になると机から窓辺にいる彼女を見やっていました。彼女の話に留意して手元から頭を上げていた私は視界が開けたように感じ、何だか部屋に差し込んでいる冬の日差しが一段明るくなったように感じました。そうして落ち着いた時間を感じると共にほんのりとした暖かな気分になりました。「友達に成りましょう。」、私はこの時、友達に成った時の彼女の最初の言葉、その時の専攻教室の風景を思い出していました。結局、以前にも書いたようにその後も彼女とはそう親しくならずに終わりました。けれどもその為人としての思いやり、彼女からの友情という物を感じた一時でした