Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華4 32

2022-03-08 09:53:12 | 日記

 危ない!

妻の声だ。が、もう彼は振り返って背後にいる人物を見ていた。

「おやっ!?。」

彼は意外に思った。未だ幼い子供の姿が彼の目に入ったからだ。『子供じゃ無いか。』彼は内心呟いた。

 次に彼は、妻の言った言葉、「危ない」という言葉が妙に気に掛かってきた。何だろうか?、自分の傍に何か危険な物がいるんだろうか?。今自分の彼の目に映っている、あの子が危険なものだとは思えないが。『まさか、あの子が妖怪の類いとか…。』そんな事を思うと、ぶるる…。思わす武者震い、否、単なる震えだ、寒いからだ。そんな風に考えてみる彼だったが、やはり恐怖に襲われた彼だった。

    が、妻の手前、ここで逃げ出しては夫の沽券に関わと、漸くの事で彼は玄関に踏み留まっていた。そんな彼は、目の前の子供にやはり腑に落ちないものを感じていた。何故あんな幼い子がこんな所に?。こう思う彼には、自分のいる場所が故郷の山の中なのか、自分の店の店先なのか、判然としていないという理由があった。仕方無い事かもしれ無い。それ程彼は夢現、自分が恐怖の真っ只中にある事さえ自分自身自覚出来無い状態だったのだ。

    と、彼の眼下、直ぐ間近な下方に、もそもそとした動きをする物の気配がある事を彼は感じた。ギョっ!と、内心恐怖に襲われた彼は、一瞬、また足が竦んだ。もそもそと、丸い物の動く気配。彼がそうっと彼の視線を眼下に下げて行くと、影のように黒い色が見えた。形は?、彼はそう思って、恐る恐る確認しようとする。彼の目に黒く毛羽だった毛皮の様な物が映った。

『熊!』

熊か!、自分は襲われる!。と、恐怖に慄いた彼は、思わずよろめくように数歩下がった。

 何が起こったのか分からなかったのだが、彼は家の玄関口、閉められた透明な縦長のガラス戸を眺めていた。

「ありがとうございました。」

またおいで下さい。と、自分の口から出た言葉を聞きながら、彼は、如何やら自分の家は商売中で、今し方店の客を送り出したばかりの様だ。と判断していた。

『ぼうっとしたりして、疲れてるんだな。』

彼は思った。最近忙しかったから、これも商売繁盛で有難い事だ。閉まったばかりらしいガラス扉の微妙な揺れを確かに目にしながら、彼は嬉しそうに満面に笑みを浮かべた。

 「ここからなら1人で帰れるね。」

先に立って歩いていた母が、大通りに出る角の電信柱の有る場所に来ると立ち止まり、こちらを振り返って私に言った。私は私達母子の、後方の脇道に長く延びた2人の影を稀有な事と思い、屋外に出た時の外の暗さを奇妙に感じて歩いていた。私はかつてこんな世界を感じた事が無かった。私の何時も活動している時間帯、日中は、これから雨が降るという様な暗い曇り空の日でさえ、これよりはかなり光量が周囲に有る世界だった。

 「変だ、何か変な世界…。」

ここは本当に私が住んでいる世界なんだろうか?。私は不思議であり、奇妙であり、そして嘘ら寒く感じていた。すると本当にぶるっと身震いが来た。『何だか本当に寒い。』そう肌身に感じた。私は更にそんな季節では無いのにと思うと、我が身に実際に感じるこの気温の低ささえも妙に感じた。と、私の近辺の大気さえもが白くもやっている様に私には見えた。すると私の吐く息さえ白く見える様だ。『まさかね。』私は苦笑した。

 『大体、あの先に立って歩く母も、本当に私の母なのだろうか?。』

私はそう怪しむと、私より先に立って歩く母の黒い影として見える彼女の背を見詰め、彼女により遅れがちになりながら、不承不承という様子でこの路地の道を確りと踏み締めると、極々密やかに歩いてみるのだった。

 辺りの街の薄い明るさを奇妙に思い、未明の街の影の長さ、それを怪訝そうに母に問い掛け、これで良いのだ、この時間というのはこんな物だと、事もなげに母が言うのを聞き、それでもと、私は彼女の言葉に納得出来ず首を何度も傾げながら彼女の後から歩いて来たのだ。そんな私に、母は大通りの入り口で待ち受けていると、念押しして再び1人で帰れるねと言った。電信柱を曲がると私達の家は目と鼻の先だ。勿論と私は答えた。