Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華4 37

2022-03-30 06:30:45 | 日記

 突然、ガラガラ…、ドン!っと、家の玄関上り口の方向で、小さな雷鳴が轟いた。『家の中で雷が鳴る?、なんて…。』私はその事を意外に思った。雷神に対する己が臍の喪失という恐怖よりも、屋内での雷発生という摩訶不思議な現象への不思議が私の内で勝った。『何だろうか?』私は祖父母と共に、居間の隣、階段の部屋に向けて開け放たれている居間の入り口を見守った。

 私達3人が見守る中、居間の開いた入り口から見える位置に、漸う姿を現した人物というと、それは私にとっては意外な人物、私の母であった。おやと私は思った。てっきり彼女は現在私の父と共に台所にいるものだとこの時迄私は思っていたからだ。隣の間にいる人物を、本当に母だろうかと私が目を凝らして見つめてみると、彼女は見るからにくたびれたぼろっとした感じの姿だった。そうしてそんな伏し目がちの母は、私達3人の注目を浴びる中で恥入り悪びれた様子をしていた。しかも彼女は階段の部屋に入る時、横様に移動して玄関から現れた。それは誰かの手に押されてその身を現した様にも私には見えた。私の見えない戸の影に誰かいて、その影にいる人物が私の母の肩に手を掛け、手で以って顔女の身をこの家の奥へと押し込んでいるのだろうか?。それは私の父だろうか?。私は半信半疑、そう疑い推論してみた。

 「今度こんな事があったら警察に突き出すからな。」

そんな声が隣の部屋の玄関入り口方向から聞こえ、今日の所はこれで勘弁してやる。そんな声が玄関降り口から聞こえたようだ。父の声とは違うなと私は思った。子供の手前だ、仕様が無い、これから気をつけろ、等々。これは内では無い誰か他の家の人の声らしかった。『私には聞き覚えが無い人の様だ。』私は思った。そうして言葉の意味がよく分からなかった。この現況事態が私にはさっぱり読めないのだから、私に耳にする言葉を理解しろという方が土台無理だった。何を言っているのかなと思う内に、ちゃぶ台から祖父がスッと無言で立ち上がり、居間に在る土間、その土間から家の玄関に向けて造られている引き違い戸の、格子の部分の隙間から、彼は畳の間から彼の身を伸ばして表を覗くと玄関を窺う状態になった。祖父はそのまま暫く伸びをして静かに玄関を眺めていた。

 祖父が食卓に戻る頃、私の母はしょんぼりとしょぼくれた感じで居間に進んで来た。彼女は項垂れた感じで居間の入り口に立った。そんな私の母の姿に、祖母はねえさんと一言声を掛けた。それに対して、この屋の若い嫁は目を伏せた儘黙っていた。

「あの子はどうしたの。」

姑が声を掛けると、

「庭だろう。」

嫁では無く舅が返事をした。

「お前、智ちゃん。ちょっと行って、お父さんを呼んで来ておくれでないか。」

姑は微笑むとこの屋の孫に声を掛けた。うん、いいよ。孫は祖母の願いに機嫌よく返事をして、その場を発つと家の奥へと向かった。