Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華4 36

2022-03-24 14:28:21 | 日記

 そうですか、そう祖母は言うと、それでも視線は祖父に向けた儘で、ゆうるりと彼女は私の方へと膝を向け始めた。彼女は飽く迄自分の夫の様子が気掛かりなのだ。その後も私の祖母はこちらに向き果せ無いでいた。私は祖母に声を掛けた。

 「お祖父ちゃん、怒ってるの?。」

「そ、そうだね。その様だね。」

祖母は声だけ私に向けて喋っていた。「何を怒ってるの?。」私は問い掛けた。これは祖母に向けての問い掛けだった。

 えっ?、さっ、さあ?。祖母は未だ祖父の方を向いて言い淀んでいたが、私が祖父の背に目を向けてみると、この頃には祖父の背中から角が取れて来ていた。夫の背が丸くなった様な気配に、もう良いと判断した私の祖母は、遂に彼女の顔を私の方へと向けた。

 「お前分かるかい。」

祖母は私の顔を真面目な顔で見詰めながら問い掛けて来た。私は首を縦に振った。

「お祖父ちゃんが怒っているって…。」

祖母は内緒話をする様にこっそりと私に話し掛けて来る。それはと、私は彼女に答えた。こちらに背中を向けて拗ねた様子が、如何にも遊び仲間や子供達のご機嫌斜めな様子と同様だと。

「あんな時は怒っているんだよ。」

私はこの前気が付いたのだと、その時の自分の経験を祖母に説明した。そうして付け加えた。「大人も同じなんだね。」。

 その後私は、鼻白んだような顔をした祖母に何故祖父が怒っているのか分かるかと訊かれて分からないと答えたが、続けて祖母に、祖父の不機嫌になる前、彼がこちら側の私達に背を向ける前のこの場の状況を訊かれたので、私は彼女に事細かにその時の状態を説明してみせた。

 「…その時に気が付くと」私は言った。「お母さんがいなくなってて、」私は続けた。台所へ行ったらしいと。それで少ししたら父も立ち上がって台所へ行ったのだろうと。この事は確かに私が目にした事だった。するとここで、祖母はハッとした様子で口を開けた。彼女は私達3人だけのちゃぶ台の周囲を改めて見回した。そうして彼女は口を開けた儘、ちゃぶ台の向こうの祖父を見詰めた。彼女は自分の夫というよりも、この食卓の部屋の空間の一点を見詰めていた。

「問題はあの娘(こ)が何処へ行ったのかだわ。」

私の祖母は呟いた。

 どうやら祖母のこの憂いが祖父の知る所となり、その事について私の祖父母が二言三言と話を始めた頃、バタバタ…、と、家の前から玄関、そしてこの居間へ騒動が音を増して近付き、瞬く間にその騒音の大元が姿を現した。何方だろう?何と無く私はその言葉を胸に思い浮かべた。その場の祖父母の空気を読んだのかも知れない。両方だろうか。私はそんな声を聞いた様にも思う。