「お前こんな所で 何をしている?。」
私は父の声に気付いてハッとして振り返った。
「人が聞いたら直ぐに返事をする様言ってあるだろう。」
父は不機嫌な声でそう言うので、私は父の顔を注視した。やはり、私が父の声音から読み取った通りに父の表情は機嫌が悪い様相を呈していた。否、機嫌が悪いのを通り越して怖い顔をしている。私はぼうっとした頭で苦笑いをした。父が私の訳の分からない事で怒っているのは今回が初めてじゃ無い、そう思うと、私は思わずその事に合点した様に苦笑してしまったのだ。
「何をニヤついてるんだ。」
父の声は相変わらず怒声を含んでいる。父の怒りが長引いているのは珍しい事だ。何を怒っているのだろう?。私は父の声が恐ろしくもあったが、その彼の声音を発する原因にも興味が湧いた。そこで私はおずおずと、彼が何を怒っているのかと尋ねてみた。
「お父さんは怒っていない。」
父は私の問いにそう答えると、彼の顎に手を当てやや俯き黙ったが、その後顔を上げた時にはどうやら平静な状態の父の顔に戻っていた。無理に気持ちを落ち着けた雰囲気が私にも分かる程、父の顔は緊張で引き締まっていた。そんな父の顔をジロジロと、私は繁く眺めていた。父は言った。
「今の場合、お父さんの事は如何もいい。お前の事だ。」
『私の事?…。』
何の事だろうかと私には合点が行かなかった。庭草を挟んで私と父の間には暫し沈黙の時が流れた。
私が首を傾げていると、父はお前分から無いのかと重ねて問うて来た。裏庭で草を観察していただけの私には何も分かる訳が無かった。それでそうだと答えると、父は如何にも落胆したという様に項垂れて嘆息した。あれがあれならお前もお前だ。半分はこっちの血も引いている筈なんだがなぁ。そんな事を言って、父は何時もの様に優しそうに微笑するとこちらを見る目をしょぼつかせた。
「呼んだら直ぐ答える様何時も言ってあるだろう。」
分からない様だから言ってやろう。そう前置きした父は、私にさも自分の手品の種明かしでもする様にそう彼の怒りの原因を明かした。