しかし、皆どんどん進んで行ってしまうので、私だけここで立ち往生する訳にも行きません。被った帽子を目深にして、恐る恐る、嫌々、私は仕方なく歩を進めてみました。すると、2メートル程進む内に、段々と蜂の羽音の強烈さが引いて行きました。そして、それに連れて私の警戒心も薄らいで無くなって行きました。
蜂にすると、蜜の楽園に行き成り入って来たのは私達です。私達が静かに通過して行くだけだと分り警戒心を解いたのでしょう。私の気持ちが強くなったというよりも、蜂の警戒心の方が何だか丸くなった気がしました。
私は落ちついて歩を進め、何事も無いように庭に続いている小道を辿って行きました。漸く家の傍に開いた入口が間近に見える場所まで来ました。建物はもうすぐそこです。と、私の後ろから呼び止める女性の声が掛かりました。
「私達はこっちよ。」
振り返ると手招きされました。
「入口はこっちじゃないんですか?」
と目の前の戸口を指差しながら、私は不信に思って尋ねてみました。手招きされた方は私の方を見て、
「私達はこっちの入り口から入るんですって。」
と笑顔で返事をされました。
何しろ寄せ集めの旅行団体のような物です。初対面の方が殆どの私には誰が誰とも分かりません。私は不意に聞こえてきた日本語に、言われるままにその人に付いて行って良いのかどうかと半信半疑でした。それで、呼び止められて示された道を行く人々の中に、私の知った顔が無いかと探してみました。しかし背中ばかりが目に入り顔がよく見えません。
私は分かれ道で少し躊躇しました。が、呼び止められた方に私達の旅行団体の名前を言われ、一行の方でしょうと笑顔で言われると、やや安心しました。それでも不安感を持ちながら、私は手招きされた方の指し示す方向へと歩いて行きました。
(お庭は広い物でした。もしかすると家の敷地より広いかもしれません。私は昨晩、この旅行中メモを取っていたことを思い出しました。不意に何でも思い出すものです。手帳はもう捨ててしまったかと思いましたが、本棚を探してみるとありました、感激しました。この年、昨年度と2、3年分のメモが載っていました。それによると、アン・ハザウェイの家に着いたのは9時15分とあります。500年以上前の建物、100年前より13代住むとあります。メモの時間は現地時間です。)
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