Jun日記(さと さとみの世界)

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土筆(54)

2018-04-24 08:30:32 | 日記

 「…ちゃん、そんな物見てたんだ‥。」

従姉妹は放心したようにふんわりそう言うと、口に手を当てました。暫くして急にお腹を押さえた彼女は、「うくく…」と、腹痛に苦しみ出した様子です。彼女の前にいた私は振り返り、容体が急変した彼女の様子を見ると気が気では無くなりました。片方では同い年の男の子と対峙し、片方では従姉妹の容体にも気を回し、彼女に大丈夫かと体調を尋ねる事になりました。

 私の2、3回の問いかけに、気丈にも彼女は弱弱しい声でしたが、どうにか声を絞り出し「大丈夫だ。」と答えるのです。そこで私は遊び仲間の男の子の方に向かうと勢い込んで、弱っている彼女に一言謝ったらどうだ等、ポンポン言って詰め寄りました。私の勢いに飲まれたのでしょう、彼の方は口を開けてたじたじとするばかりです。口だけは「謝る必要はない。」「何で俺が謝るんだ」等、今日の地域の子供行事の為に整えていた余所行き言葉から、普段使いの言葉に戻って来ていましたが、粘り強く強情な事を言い張っていました。そこで遂に業を煮やした私は、

「謝らないならもう遊ばない!」

と遊び仲間間で行われる最終の決め台詞を彼に投げつけました。

 流石にこの言葉で彼も雷に打たれたようになりました。彼は表情を変えると、私の最後通告を受け入れてしょんぼりとうな垂れると、「何で俺が謝らなければならないんだよう‥」と呟きながらも、私の傍らを俯いて通り過ぎ、従姉妹の元へと歩み寄って行きました。

 実はこの時、従姉妹はせり上がって来る笑い声を必死に堪えていました。流石に堪え切れなくなり、忍び笑いを漏らしていましたが、そうこうする内にぐっと胃がせり上がって来て、みぞおち部分に確かな痛みを覚えていました。その為彼女は口や腹に手を当て遂にはしゃがみ込むという体制で目を閉じていました。閉じた目から大粒の涙が溢れ出て来ます。涙は止めようがありませんでした。大笑いを堪えるのに必死で身動きが取れません。年下の従姉妹に言った大丈夫だの言葉も漸く口から声に出していました。彼女の目からは止めど無く涙が溢れるばかりです。目を開けてみても視界はぼんやりと滲むばかりで視力が全く利きません。彼女は、これでは立って歩く事は儘ならないと感じていました。

 「…ちゃん、泣いてるの?」

年上の従姉妹の目に涙を認めた私は声をかけました。そんなに感動してくれるなんて。私の従姉妹に対する思いにそんなに感動してくれたなんて、こう感じ入ると私は自身を正義感溢れる勇者の様に思い、胸を張って彼女に快活に言葉を掛けました。

「敵は打ったからね。」


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