住職さんに問いかけられた光君の祖父は、
「ああ、そうでした。あの子はもう念が晴れて彼岸へ旅立ちました。もう此処にはいません。」
と答えます。
「おや、ではお1人成仏されましたね。結構結構。」
住職さんは穏やかな顔になると、片手で合掌して一節お経を唱えるのでした。
さて、と住職さん。お宅はどういう寄り集まりになったんです。と、今度はまた蛍さん一家に問いかけて来ます。
源と澄には、あなた達がこの2人を此処へ呼んだんでしょう、いけませんね。と、叱責します。
「いや、僕が呼んだわけじゃないよ。」と、源。
「私でもないわよ。」と澄。
じゃぁ誰が呼んだんですか、ご先祖様が呼ばないのに如何やってその子孫が此処へやって来られると言うんです。
住職さんの言葉に、源と澄は顔を見合わせてみますが、どちらも思い当たる節が無い様子です。
2人で両手を上げてお手上げの格好をすると、さぁねぇと、これは本当に、2人共に心当たりが無いのでした。
困ったわねぇと住職さん。暫く考え込んでいましたが、此処でこんな事をしていても埒があきません、
皆さん生あるものは来てはいけない所にいるんです。早く元の場所に戻りましょう。と、
蛍さんの父には、私に付いて来なさいと指図すると、そろそろと歩き出す気配です。
「そちらの方は頼みますよ。ちゃんと元の場所に戻してくださいね。」
光君の祖父に蛍さんの事を託すと、光君の祖父もああ分かりましたよと引き受けました。
返事を聞いて住職さんは後も振り返らずに無言で歩き出しました。
蛍さんの父を従えて霧深い中にでも入るようです、厳かな感じで進み、小さく遠くなって行きました。
「さて、我々も帰るとしましょうか。」
光君の祖父が言います。じゃあ、お2人ともお元気で、と言うのも変でしょうが、
また来る時までには成仏していてくださいね。とでも言った方がよいのでしょうね。
そう言って笑いながら源と澄に手を振ります。
「あの子が本当にお世話になりました。成仏してくれてホッとしました。良かったです。」
そう言って蛍さんの手を取ると、2人でゆっくり歩き出しました。辺りはすぐに霞か霧のような靄に包まれました。
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