確かに、元々、彼女が今まで可愛いと言われた事はそう多くありません。それでも、幼い女の子の事、「可愛い」「べっぴんさん」等は、お愛想として言われない訳は無い言葉です。不思議な事に、こんなに幼くしても彼女自身は自分の事を美人だと判断してはいませんでした。それでも鏡を見ながら「可愛いよね。」等と呟いてみたり、時には全然可愛くさえも無いと自己評価したりもしていました。彼女は自分の周りの大人の反応から、既に自分はそう器量が良くないという事を悟っていました。見目の良い容姿に関する言葉は、彼女の頭上をはるかに超えて行きかいしていました。彼女はその事にも既に気付いていました。彼女は最近、
「頬を膨らませるとおかめみたいになるよ、可愛い顔が台無しになるから止めなさい。」
そんな事を、父方の祖母から微笑んで言われた事を思い出しました。その極新しい記憶を加えてでさえ、生来から考えると、彼女には容姿に関して受けた唯一無二とも言える、嬉しい記憶の一つでしかないのでした。これは言葉の端にでも一応は可愛いと言われた事になるのですから。
『おかめなら分かるけど、ひょっとこなんて…』似ているだろうか、あんな口をとんがらした顔に?何方かというとお祖母ちゃんが言ったように、おかめに似ていると言われたなら分かるのに…。どう考えても彼女は従姉妹が自分の顔をひょっとこに似ていると言った事に納得がならないのでした。先程怒って頬を膨らませていた事は、客観的にみて自分にも分かっていました。ここで、『妙ね』と彼女は首をひねりました。決して口は尖らせてはいなかったのに…。
『おかめなら分かるのに…。』再度どう考えてみても、彼女は自分の顔がひょっとこに似ているとは決して思えませんでした。しかも、と彼女は考えました。おかめもひょっとこも不細工な人の顔なのに。彼女には幾らなんでもそこまで自分の顔が酷いとはどうしても思えませんでした。また、そんな酷い言葉を、何故従姉妹は親戚の私に言ったんだろう?彼女にはそれがどうにも不思議で腑に落ちないのでした。
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