そんな事を数回、私は追い掛けても追い掛けても、それを拒むように後退する靄の様子に、何だか自分が揶揄われているような気分になりました。私は馬鹿にされているようで自尊心が傷ついて来ました。靄を追いかける事繰り返し、3度目程でむうっと向っ腹を立てた私は、もう辞めたとばかりに靄との鬼ごっこに区切りを付け、その場に立ち止まって靄を睨み付けました。ふんと、鼻息を吐くとくるりと靄に背を向けました。
私は振り返ると神社入口、自身の背後の光景をその日初めて見ました。すると私の後方は、神社本殿へと続く石畳の延びる所迄、境内の白い靄で覆われていました。私はそれと気付かない内に、もうこの靄の中に入り込み、既に靄の中に立っていたのでした。この事態に私は驚きました、一瞬、その現実に驚愕し、恐れを感じた私は震撼しました。
私の今いる位置から神社の入り口までは、約7、8メートルは有るでしょうか。その時の私には近くは無い距離だと感じました。そして、巨木の陰が降りる境内の暗さが、私が感じている恐怖に益々拍車を掛けました。『急いでこの場を出よう!。』、私は決心しました。
早急に境内から出る事を念じながら、又後方を気にしながら、私はそろそろと足を踏み出しました。数歩歩くと、気のせいか後方に引き戻される気配を感じました。私は気のせいだろうと思いました。これは空元気のような物でした。神秘的な現実を受け入れたくなかったのです。実際、私を取り巻く足元の靄の流れは、私の後方、神社奥へと向かっていたのでした。
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