山口富男
不破哲三さんの新しい著作『資本論」全三部を一読む』新版の刊行がはじまりました(第1冊は昨年11月、第2冊は今月、以後11月まで隔月で全7冊を刊行)。
この著作は、2003年~04年に刊行した旧版を、その後の研究の発展をふまえて精査・改定したものです。改定にあたっては、新版『資本論』(全12 冊、党社会科学研究所監修)の訳語、訳文、編集上の成果が生かされ、引用・参照ページも改められています。
現代的、歴史的に読む
本書の特徴は、講義(ゼミナール)の形式で、読者とともに『資本論』全巻を読みとおすことにあります。講義は1年、21回で構成され、1冊ごとに3回分を収めます。
講師の不破さんは、マルクスの主著『資本論』を、現代に生きる指針として、その形成と発展の歴史のなかで理解することに徹します。なかでも、マルクスが資本主義を人間社会の歴史的な一段階ととらえたことを重視し、恐慌論をふくむ資本主義の経済法則の解明、社会変革の諸条件の準備と未来社会論の展開をあますところなくつか
もうとしています。
商品論から搾取論まで
第1冊は、『資本論』をめぐる開拓と苦闘、研究方法を学び、第一部「資本の生産過程」の第一篇「商品と貨幣」を読みます。講義は、論述の流れと主題に応じた考察の段取りを示し、大事な概念や考え方は突っ込んで解説、マルクスと文学・日本など、味のある論点も見逃しません。商品論冒頭と「恐慌の可能性」に関わる貨幣論の一節を遂条的に読み、価値形態論では、要となる貨幣の秘密を語ります。新たに収録された関連年表も、理解を助けます。
第2冊では、マルクスの経済理論の核心である剰余価値の謎を解き明か
し(第二篇)、剰余価値の生産、資本主義的搾取の分析に進みます(第三、第四篇)。講義は、マルクスの労働論の特質を「物質代謝」という用語も使って説明し、工場法論の現代的意義、続いて、「独自の資本主義的生産様式」の成立と発展、生産にたずさわる労働者の変貌ぶりに注目してゆきます(第2冊で扱うのは、第四篇第一三章「機械と大工業」の第四節まで)。
新たな魅力を生む補注
新しい著作の主な改定内容は、ページ欄外の「補注」にまとめられています。その数は、既刊の2冊で280カ所余り、どれも読みやすく、本書の新たな魅力となっています。
補注の内容は、『資本論』の歴史とノート・草稿の状態、経済的社会構成体などの基本概念の説明、不破さんの新たな研究とマルクスたちの著作紹介、さらに、世界と日本の政治・経済・文化・歴史にかかわる事項解説、経済学者を中心とした人名録と、実に多彩です。
本書は、こうして〝新版『資本論』をテキストに全三部を読む〟、初めての著作となりました。
(やまぐち・とみお 日本共産党幹部会委員)