なんともやるせない映画でした。全編を通してけだるい南国の湿った空気が流れているようなそんな感じ。
林芙美子、成瀬巳喜男、高峰秀子、森雅之という組み合わせがなければ存在しなかった映画。
録画してあった映画をTVも見たい番組もないし、かけておこうかと思って再生したら、とても魅力的な映画で
どんどんひきつけられてしまいました。とにかく高峰秀子のインパクトがすごい。男と女の微妙なずれと、それでも離れられない
浮雲に例えられるような関係。自立できる女性なのに男性のもとに走ってしまう・・ときに男と女の戦いのようでもあり、
人生に翻弄され、甘いメロドラマではない、日本の戦後に流されて生き抜こうとする男女の物語。魂のないどうにもならない人間に
なってしまったとつぶやく男。行く当てのない二人。
いい加減な、優柔不断な男だが、その優柔不断さはやさしさから来ていて、自分を求める人を拒めない。2回見ると男性の
やさしさが伝わってきて、悲しい美しい結末へと向かっていきます。流れ着いた屋久島で、ランプの光の中で死に化粧をする
男の悲しさが伝わってきて2回目に見た時はこのどうしようもない冷徹に見える男の良さがわかったような気がしました。
暗い映画だけど、最後に救いがありました。最後の涙はジェルソミーナを思って泣くザンパノの涙を思い出させました。
男と女の永遠のテーマだけど、林芙美子の思いが詰まっている作品なのだと思いました。退職後パートで務めていたこども園の
近くに林芙美子記念館があり、行ったことがありましたが、彼女はかなりモダンな女性だったのですね。油絵も描くし、自立して
いたしっかりした女性だったと思われます。
母が森雅之のファンで父がからかっていたことを思い出したりもして。
成瀬監督の映画を見たのは「女が階段を上がる時」以来ですが、その時のキャストも高峰秀子と森雅之でしたが、この映画の方が
何倍も良かったです。溝口、小津と共に日本を代表する映画監督の代表作でした。 今小津とヴィクトル・エリセの映画も
借りているのですが、なかなか見る時間がなくて・・
高峰秀子の存在感がすごくて迫力がありました。こんな女優さん日本には他にはいないでしょう・・
浮雲
1955年製作/124分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1955年1月15日
キャスト 高峰秀子 幸田ゆき子
森 雅之 富岡兼吾
中北千枝子 妻邦子
木村貞子 母
山形勲 伊庭杉夫
岡田茉莉子 おせい
加東大介 向井清吉
スタッフ 監督 成瀬巳喜男
原作 林芙美子
製作 藤本真澄
撮影 玉井正夫
音楽 齋藤一郎
美術 中古智
照明 石井長四郎
録音 下永尚
監督助手 岡本喜八
脚色 水木洋子
成瀬巳喜男監督『浮雲』
映画のロケ地を調べた動画が面白くて。なんだか私が生まれたころの東京が浮かんできました。木のこんな家が多かったと
なんとも小さなころの記憶が少しよみがえってきます。成瀬監督はあまりロケは好きでなかったとのことですが、戦後間もない
東京の姿が現れています。
追記)
森雅之は有島武郎の子供と知ってびっくり。芥川龍之介の子供たちも俳優や音楽家だったけれど・・
父と同じ京大を中退していたことも今知りました。彼自身の生涯もドラマティックでした。
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