ずいぶん前になるけれど、箱根で見たアケボノソウがかわいくて、南高尾 梅の木平あたりで咲いているというブログを見たら、行きたくなってしまいました。それで今日の4時半に検査機器を病院に取りに行く前に午前中からお弁当を持って、高尾に行くことにしました。関東ふれあいの道という林道を三沢峠に向かって登って行きましたが、人がほとんどいなくて、途中のグリーンセンター【閉鎖中】というところまで行って、アケボノソウも見つからないし、道を間違えていたのではないかと思い戻りました。同じバス停で降りた山ガール二人は途中で地図を広げて他の方向へ行って私の後にはついてこなくて、前にも後ろにも誰もいない状態。すれ違ったのはたった一人という山の中でした。
一日に3便しかないバスが来たので、高尾駅に戻り、駅近くの川沿いのベンチでお弁当を食べて高尾ミュージアム599により、その隣の高尾森林ふれあい推進センターの受付にいた方と話をして梅の木平のアケボノソウのことを聞いたら、道は間違っていなかったみたいで、以前そこで見たことはあるけど、何しろ小さい花なので見つけるのは難しいとのお話でした。TAKAO599では高尾山でアサギマダラを2匹見て感動したと話していましたが、1週間前は群れ飛んでいて、もうだいぶ旅立ってしまったのだと思いました。
病院に行く前に、須田町の高山珈琲でおいしいコーヒーを飲もうと思ったので、ミュージアムのカフェも我慢したのですが、なんと珈琲店の前に喪中なのでしばらくお休みしますの張り紙、近くの近江屋洋菓子店も閉店していたので、もうどこもなくて、御茶ノ水駅近くの昔入ったことのある、窓ガラスの大きなコーヒー店に入りました。
そこでは年配の店員さん同士が年取っていく親の心配をしているような話をしていて、そこに入ってきた常連さんらしき男性がもう年賀状やクリスマスの話をするので、もうやめてと言いたくなりました。
窓の外にはギターケースをかかえた学生が3人ベンチか石垣に腰かけてしばらくいました。大きな窓ガラス、シールドの向こう側に青春が見えました。ガラス窓に何か光も反射してすごくおもしろい感じで写真を撮りたかったのですが、今の時代人が入るととても難しくなってしまうので、あきらめました。あの若者たちが今後迎える大変な未来、でもたくさんの時間。そして私も今年からリセットして1年ごとカウントし直すような感じで平均寿命まであと十何年。どこかで聞いたことのあるようなないようなポップ・ミュージックがかかり、曲もおぼろげな記憶と同じように霧がかかっていたような感じでした。なんだか泣きたいような不思議な気分になってきました。
お茶の水はどこかノスタルジックな思いが湧き起る街です。学生時代や就職したての頃それほど来たわけではないのですが、いろいろな思い出がよぎり、知り合った多くの方も結構早く亡くなりました。道路を渡り反対側の病院に行けば、門の前がずっと工事中で、1階から入り、そこは主人を救急外来で何回も運んだ場所でした。このソファーで何時間待ったことやらとあの時代のことが甦ります。病院の会計で待っていた時に、まるで生まれたてのような赤ちゃんを見ました。きっと産科からの退院なのでしょう。小さな生き物でした。2組いてご主人がいっしょの人と、お母さんと一緒の人がいました。赤ちゃんの命ってどこから来るのだろうと不思議な気持ちになりました。生まれる前はどこを旅していたのだろうと・・ 私もこの地球に生まれて来たからにはもっと地球に触れていたいと思うようになりました。
昨日から「時は過ぎ去って行くのではなく、やってくるもの」と言う言葉を思い出したり、谷川俊太郎の「もうそんなに人さまのお役に立てなくてもいい、好きに残りの人生を楽しんでもいいと思えるのは老人の特権」とういう文章があったと思い返したりしていました。私の母は年取って人の役に立てないとか人に迷惑をかけたくないという思いが強い人でしたが、ドリアン助川は「人の役に立ちたい、そうでないと生きている意味がないと言うけれど、その言葉には隙がいっぱいあるように思えた」というようなことを語っていました。子供が小さい頃土日の度に熱を出し、病院に連れて行っていた時に、女医さんから3歳児は人に迷惑かけないで生きていけないものよと言われて救われたことがありました。土日以外の時は仕事があるのでいろいろな人に助けてもらい育ててきました。老人にだってそれでいいのよと言ってあげたいです。私も立派な老人ですが。
この前久しぶりにお会いした植物の先生は牧野富太郎先生との出会いについて質問した時に、他にもいろいろな先生たちに出会って教えてもらってきたことを語り、恩返しはできないけれど、自分の受けて来たことを人に伝えていくようにしてきたと話されて、皆さんも何かあるでしょうからそういうものを伝えていってくださいと結んでいました。そこでベニシアさんと陶芸家の会話を思い出しました。中村明久氏の「特別なことでなく、ただ普通に生きているだけで、その人にしかできないことは絶対ある」という言葉を思い出していました。
ドリアン助川のインタヴュー番組を見てから「あん」という映画を見たいと思っていましたが、見ようと思った時に録画が消えていたので図書館から予約待ちをしていたDVDをやっと見ることができて、河瀬監督も樹木希林も素晴らしいと思いました。まるで希林さんのドキュメンタリーでも見ているように自然で彼女の生き方と重なってきてしまうところもありました。返却するまでもう一度ゆっくり見ようと思いますが、「何かにならなくてもいいのよ、この自然を見るためだけに生きても人生は生きる価値があると・・・」と言うようなセリフが響きます。自然の声を聞き、自然と対話するということだってなんと素晴らしいこと。希林さんが若い人たちに生きなさいと励まし続けてきた活動を思い出しました。
南高尾から御茶ノ水までのセンチメンタルな旅でした。
Oct. 27 2020 Takao & Ochanomizu