「週刊新潮」に寄稿した書評です。
ケネス・ウオマック:著、松田ようこ:訳
『マル・エヴァンズ もうひとつのビートルズ伝説』
シンコーミュージック・エンタテインメント 5500円
マル・エヴァンズは、リヴァプール時代のビートルズが出演していた「キャヴーン・クラブ」の元用心棒。後にロード・マネージャーとなり、演奏活動から私生活までをサポートしていた。本書は、マルの急死によって封印されていた回顧録や日記などをベースに、ビートルズ研究家の著者がまとめ上げた800頁の評伝だ。裏側から見た4人の音楽的軌跡と素顔には、類書が及ばない生々しさがある。
林 望『結局、人生最後に残る趣味は何か』
草思社 1870円
現在75歳の著者が、自分にとって「趣味」とはなんだったのかを振り返る。第一に趣味はクリエイティブな営みだ。基本は「よく見て真似る」こと。目指すべきは「上手な素人」ではなく「下手な玄人」だという。また趣味は友だち作りの場ではない。その一方で料理や芸術は「人を喜ばせたい」気持ちが上達のコツでもある。自分なりのバランスを保ちつつ、貴重な時間を楽しく使っていきたい。
木田滋夫『下山事件~封印された記憶』
中央公論新社 1870円
下山事件の発生から75年。今もこうして関連書籍が出ること自体、この事件の闇の深さを象徴している。何より、他殺説はなぜ封印されたのか。新聞記者である著者は自ら発掘した資料を基に、他殺説に新たな光を当てていく。博物館が保管していた捜査書類「ガリ版資料」。担当検事が残した「捜査秘史」。元旋盤工の「新証言」。さらに「謎の元憲兵」の動きと背景をめぐる検証もスリリングだ。
森永卓郎『身辺整理~死ぬまでにやること』
興陽館 1650円
身辺整理とは、身の回りのモノや資産などを分けしながら整理すること。本書は突然の余命宣告でやむなく敢行した著者の体験記だ。まず、モノは捨てること。必要ならまた買えばいい。古いパソコンは処分して1台にまとめる。また厄介なのが資産整理だ。資産リストは完璧に。預金口座は一本化する。そして仕事は無理のない範囲で継続する。24時間、やりたいことはすぐにやることも大事だ。
(週刊新潮 2024.11.14号)