「命」を見つめた秀作ドラマ
綾瀬はるか主演「義母と娘のブルース」が話題を呼んだ今年の夏ドラマ。しかし、目立たぬ秀作がNHKで放送されていた。ドラマ10「透明なゆりかご」である。
物語の舞台は由比朋寛(瀬戸康史)が院長を務める産婦人科医院。そこに看護師見習いとしてやって来たのが、高校の准看護学科生である青田アオイ(清原果耶)だ。
産婦人科のドラマといえば、最近だと綾野剛主演「コウノドリ」(TBS系)の印象が強い。そこでは総合病院における最新の「チーム医療」が描かれていが、由比のところのような個人病院ではとても無理だ。その代わり、由比は個々の妊婦とその家族に可能な限りコミットしていく。むしろ、そのために独立したと言っていい。
確かに妊婦たちはそれぞれの事情を抱えている。受診歴のないまま来院し、出産後に失踪する人。自らの持病のために出産を断念しようとする人。中には出産後の血圧低下で命を落とす人もいる。
また、このドラマは死産や中絶といった重いテーマも果敢に取り込んでいた。中には14歳の中学生が妊娠・出産するという回もあった。その判断に至るまでの本人や家族の葛藤をきちんと描き、さらに出産から9年後の母子の姿も見せていた。
何より好感がもてたのは、どのエピソードでもわかりやすい結論を下していなかったことだ。理想や倫理だけでは白黒つけられないグレーの部分で悩んだり、傷ついたりする妊婦や家族。そんな彼らを静かに見つめていくのがアオイだ。
実はアオイ自身もADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断された過去をもつ。また感情の起伏の激しい母親(酒井若菜)との関係もうまくいっていない。自分に自信が持てなかったアオイが、命の現場に立ち会うことで少しずつ成長していく。16歳の清原はドラマ初主演ながら、アオイが憑依したかのような熱演を見せていた。
原作は沖田×華(おきた・ばっか)の同名漫画。脚本は「失恋ショコラティエ」(フジテレビ系)などの安達奈緒子だ。女性が抱える、やるせない気持ちまで丁寧にすくい上げながら、生真面目でいて温もりに満ちた、「命」のドラマを構築して見事だった。
(しんぶん赤旗「波動」2018.10.15)