碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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現代ビジネスで、「フジテレビ問題」について解説

2025年01月24日 | メディアでのコメント・論評

 

中居正広「芸能界引退」のウラで

フジテレビの「自滅行為」と

問われる「責任」

 

タレント・中居正広の女性トラブル問題を発端に、フジテレビが窮地に立たされている。渦中の中居は1月23日に突然、引退を発表した。その一方でフジテレビではスポンサー企業のCMの差し止めや見直しが続いており、その数は75社以上にのぼっている。

中居正広が突然の引退発表

フジテレビの社員が、中居と女性との飲み会をセッティングし、その際に「不適切な接待」があったことが報じられて以降、大騒動となっている。

すでにレギュラー番組が打ち切られることが伝えられていた中居は、1月23日に自身のファンクラブサイトを通じ、芸能活動の引退を突然表明した。

《私、中居正広は本日をもって芸能活動を引退いたします。なお、会社であります【(株)のんびりなかい】につきましては、残りの様々な手続き、業務が終わり次第、廃業することと致します》

文中ではトラブルのあった女性や関係者に向けても謝罪し、ファンに向けては、

《ヅラ(※ファンの総称》の皆さん一度でも、会いたかった 会えなかった 会わなきゃだめだった こんなお別れで、本当に、本当に、ごめんなさい。さようなら…》

と別れの言葉を述べていた。

「中居さんは1月9日に発表された声明の中で、トラブルが合ったことを認めた一方で一部の報道について否定、さらに示談が成立したことを報告していました。ただ、『今後の芸能活動について支障なく続けられることになりました』と記していたことから批判が相次いでいました」(週刊誌芸能記者)

引退発表直後には、中居のオフィシャルサイトもSNSも接続することができない状態に。

「一部では心と身体に傷を負った被害者の悲痛な訴えが報じられました。こうした声や事態を重くみたことで、中居さんは引退を決めたのでしょう。ただ、引退したことで記者からの直撃にも『一般人なので』と取材拒否もできる。会見を開く必要もありません。本人は責任をとったように思わせたいのでしょうが、これは‟逃げ”と捉えられてもおかしくはない」(前出の週刊誌芸能記者)

中居は引退したものの、その発端となったフジテレビでは、引き続きこの問題がくすぶり続けることになるだろう。

女性社員による接待は業界で常態化

そもそも、フジテレビはすでに危機的な状況に陥っている。とりわけ悪手だったのは1月17日に開かれたフジテレビ・港浩一社長の記者会見で、騒動に火に油を注ぐ結果となった。

顕著なのがスポンサーの反応だった。トヨタ自動車や花王、キッコーマンなどの企業が同局でのCM差し止めや見直しを始め、その数は75社以上にのぼった。多くの番組でACジャパンの広告が流れる異例の事態となっている。

「企業は自社のイメージが損なわれることを非常に嫌うため、こうした問題が起きれば当然、自社を守るためにCMを差し止めます。これまでも番組や出演タレントが不祥事を起こした際にはその番組のスポンサーが降板する、CMを差し止める、ということは何度もありました。しかし、今回のように放送局自体に“NO”を突きつけるのは初めてのことです。前代未聞というか、歴史的な事件だと思います」

そう説明するのは、元上智大学教授で、メディア文化評論家の碓井広義氏。

番組のプロデューサーやディレクターらが女性アナウンサーや女子社員らを有名タレントとの飲み会や接待の場に呼ぶことはフジテレビだけではなく、「ほかの局でも行われていた」と複数のテレビ局関係者が明かしている。

だが、社員らは女性に危害が加えられないように、タレントらからの無茶な注文からも庇い、先に帰すなどするのが一般的だ。

しかし、一部にはタレントに「上納」するかのようなやり方で、女性アナウンサーや女性社員を利用していた社員らもいたとみられる。もし、フジテレビでハラスメントのあるような接待が日常的に繰り返されていたとすれば、会社の根幹に関わる重大な事態になる。

さらに、港社長の会見で、中居と女性とのトラブルを昨年から把握していたことも問題をさらに深刻なものとした。

「その会見のやり方や港氏の発言も問題でした。まず、会見では、他の報道機関に対して、さまざまな制限をかけていたこと。そもそもテレビという映像を使った報道機関にもかかわらず、映像をシャットアウトするなど、本来ではありえないことが起きました。

報道機関としては、他の企業などでの不祥事が起きたときにはカメラを持ちこんで伝えていくわけですが、今回は自分たちにカメラが向けられるとそれを遮断しようとした。つまり、報道機関としての姿勢そのものが欠如していた大きな勘違いをしることまでが明るみになった」(前出の碓井氏、以下「」も)

被害社員よりも中居正広を守った

トラブルを把握した時点で、同局が動かなかったということも指摘されている。

「これはもう隠蔽したと捉えられてもおかしくない動きをしているわけです。それについて、第三者機関によりきちんと調べたり、事実を確認したりすることが一切なく、まるで何事もなかったかのようにそのままやってきた。

確かに正確なことは出てきていませんけれども、伝えられていることから判断しても、大きな人権侵害が起きていたことは少なくともわかる。

ですが、中居さんという人気タレントを守るため、番組や自分たちの会社を守ることで被害者へのケアではなく、問題をすべて押し込めてしまった。乱暴な言い方をすれば放送局の、テレビ局の自滅行為のような記者会見だったと思います」

前出の碓井氏は「昨年末の週刊誌報道があった時点で、第三者機関による調査を行い、それを踏まえて記者会見を開いていれば、こんな騒動には発展していなかった」と指摘する。

そのため、港社長による記者会見は、あまりにも短絡すぎたと言ってもいいだろう。自分たちの行為がさらなる危機的な状況を引き起こすことを予見できていなかったからだ。

「フジテレビの動きを見ていると、対処療法というか…目の前で起きたトラブルを単に防いでいる感じがします。問題の根本的な部分を理解しないままに、目の前の攻撃をひとつづつかわすことに注力している、問題を誤魔化したい、隠したいという姿勢が続いているように感じます」

問題の本質がわかっていない社員たち

それは朝の情報番組などからも現れている。記者会見の様子や自社の問題を取り上げてはいるが、それは「見せかけにしか過ぎない」と前出の碓井氏は指摘する。

さらに1月20日の「めざまし8」(フジテレビ系)で同局の酒主義久アナウンサー(37歳)の発言も悪手だった。涙ながらに「13年働いてきて一度も辞めたいって思ったことない」と訴えたことも、さらなる波紋を広げたのだ。

「大好きな会社で先輩も後輩も含めて、大好きな仲間がいろいろ苦しんでいる姿を見て……」などと語ったが、この発言には視聴者から批判が相次いだ。

まさにフジテレビの「古き悪しき体質」を象徴するかのような発言。

テレビディレクターの鎮目博道氏は「この発言自体が時代遅れだ」と述べ、「批判されるべきことを認識せず、ただ会社を守ろうとする姿勢が見えている」と批判する。

今回の騒動は、フジテレビの過去20年、30年の体質が現れていることを示している。20年、30年前であれば取り繕えたことであっても、現代では通用しない。

企業のスポンサー離れが、その現れだ。

経営陣は港社長の記者会見で騒動を収束させようと考えたのかもしれないが、むしろ批判の声は高まり、スポンサー企業はドミノ倒しのように離れた。ここまできてようやく危機感を抱き始めたのではないだろうか。

「関係者によると来月中にもフジテレビで放送されるCMは、ほぼゼロになるのではないか、と懸念されています」(全国紙経済部記者)

当の中居は表舞台で発言をすることもなく、電撃引退。フジテレビはスポンサー企業にも見放され、視聴者からは批判が続く。このままでは局の存続にもかかわるのではないか――。

(現代ビジネス 2025年1月23日)


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