碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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しんぶん赤旗に寄稿した「テレビの荒野を歩いた人たち」の書評

2020年07月28日 | 書評した本たち

 

「しんぶん赤旗」日曜版に、

「テレビの荒野を歩いた人たち」の書評を

寄稿しました。

 

草創期12人の体験回想記

「テレビの荒野を歩いた人たち」

ペリー荻野 著

新潮社・1760円

日本でテレビ放送が始まったのは1953年だ。しかし、それまではラジオしかなく、テレビ制作の専門家はいなかった。ラジオからの移籍組、映画や演劇、音楽界からの転身者も混在する、アメリカの西部開拓時代のような世界。まさに荒野だ。

あれから約70年。コラムニストで時代劇研究家でもある著者が、「テレビの開拓者たち」の体験談をまとめたのが本書である。

たとえば『渡る世間は鬼ばかり』などで知られるプロデューサーの石井ふく子(93歳)。TBSがテレビ放送を始めた時、嘱託として参加した。ドラマも生放送の時代で、しかも経験者は少ない。石井は手探りで新しいメディアと格闘する。

また惚れ込んだ小説をドラマ化したくて、原作者である山本周五郎の家に通いつめたりもした。時代が変わっても「私はやっぱり家族のドラマにこだわりたい。あたたかいドラマにしたいんです」と石井は言う。

青春ドラマという言葉もなかった1965年、その第1号となる『青春とはなんだ』を送り出したのが、日本テレビのプロデューサーだった岡田晋吉(85歳)だ。

「テレビは常に新しい人を好むと思っています」と語る岡田は、次の『これが青春だ』で新人の竜雷太を起用する。その後も『おれは男だ!』の森田健作、『われら青春!』の中村雅俊などがスポットを浴びていった。

本書には石井や岡田をはじめ、脚本家の橋田壽賀子(95歳)、作曲家の小林亜星(87歳)など12人が並ぶ。それぞれの回想が「草創期のテレビ」というジグソーパズルのピースとなり、テレビの「もう一つの自画像」を現出させていく。70年の間に、テレビは何を手に入れ、何を失ったのか。

(「しんぶん赤旗」日曜版 2020.07.26)