碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評】2022年8月後期の書評から 

2022年12月04日 | 書評した本たち

 

 

 

【新刊書評2022】

週刊新潮に寄稿した

2022年8月後期の書評から

 

 

石井光太『ルポ 誰が国語力を殺すのか』

文藝春秋 1760円

「国語力」とは考える、感じる、想像する、そして表す力の総体。まさに「生きる力」そのものだ。子供たちの国語力が失われているなら、誰が、何が、なぜ国語力を低下させるのか。また回復のために何が可能なのかを著者は探っていく。家庭、学校、ネットで起きていること。不登校やゲーム依存との関係。さらに格差問題を含む社会の病理も見えてくる。国語力がこの国の未来の鍵であることも。(2022.07.30発行)

 

ジェフ・フレッチャー:著、タカ大丸:訳

『SHO-TIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男』

徳間書店 1980円

日本時間の8月10日、エンゼルスの大谷翔平選手がアスレチック戦に「2番・投手兼DH」で出場。10勝目をマークした。1918年のベーブ・ルース以来、2人目の「2桁勝利&2桁本塁打」を達成したことになる。実に104年ぶりの快挙だ。本書はメジャー取材歴24年の現地記者による、4年間の密着取材だ。アメリカ野球界を舞台に展開された大谷の奇跡を、リアルタイムで追体験することができる。(2022.07.31発行)

 

大内田史郎:著、傍島利浩:写真『東京の名駅舎』

草思社 2200円

新橋・横浜間で日本初の鉄道が開業したのは1872年(明治5)。今年は150年という記念の年だ。本書には関東圏の歴史的建造物としての駅舎や、外観のデザインや内部の空間構成などに特色のある駅舎が並ぶ。設計者・辰野金吾の思いを進化させ続ける東京駅。折り紙屋根の高輪ゲートウエイ駅。木造駅舎の未来を探る戸越銀座駅など70以上だ。列車に乗らなくても、駅舎に立つだけで旅となる。(2022.07.14発行)

 

宮嶋茂樹『ウクライナ戦記~不肖・宮嶋 最後の戦場』

文藝春秋 1980円

不肖・宮嶋こと、戦場カメラマンの宮嶋茂樹。2022年2月24日の侵攻開始から、ほぼ10日後には現地入りを果たしていた。要塞都市と化したキーウ。最前線のイルピン。そこで見たもの、聞いたもの、感じたこと文章と写真で伝えている。それは日本のメディアが流す情報とも、専門家の解説とも違う。「実際に何が起きているのか」という強烈な臨場感。何より「戦争」の実像を見ているからだ。(2022.08.10発行)

 

中上健次『現代小説の方法 増補改訂版』

作品社 2860円

中上健次が46歳で没したのは1992年8月。今年は没後30年に当たる。「現代小説の方法」と題する四回連続講演が行われたのは84年のことだ。当時、38歳だった。小説を阻害するものとは何か。主人公をどう書くかなど小説の成り立ち方。さらに短篇と長篇の違いを含む構造の問題。中上は「フィクションとは騙(かた)り」だと言い、物語を書くことを詐術に例え、自身の核となる部分を明かしていく。(2022.08.12発行)

 

若松英輔『亡き者たちの訪れ』

亜紀書房 1980円

自身も大切な人を亡くした著者による「死者論」でる。現代人は目に見えないもの、感覚できないことを「ない」ことにしがちだ。しかし、「死者は生者といつも共にある」と著者は名言し、その状態を「協同」と呼ぶ。本書で語っているのは、生者が死者と協同しながら、充実した生を生きることだ。またアラン、小林秀雄、須賀敦子、田中晶子など、参考になる43冊の死者論も紹介されている。(2022.08.08発行)

 

安藤忠雄『仕事をつくる~私の履歴書 改訂新版』

日本経済新聞出版 2415円

読むと元気が出る、世界的建築家の半生記だ。独学で建築家になったことも含め、常に自分の意思で人生を切り開いてきたからだ。「仕事は判断力と実行力がすべて」であり、「自分で計画をつくって行動し、自分で責任を取る」のが安藤流だ。本書では建築以上に人生を語っている。人生の幸せに必要なのは「挫けない心の強さ」と、それを保つ「持続力」。その持論を体現しているのが安藤自身だ。(2022.08.09発行)

 

山田宏一『フランソワ・トリュフォーの映画誌 増補新版』

平凡社 2860円

ベテラン映画評論家の著者はトリュフォー研究の第一人者でもある。本書では、トリュフォーの人となりと映画を、様々なシーンを分析することで解明していく。作品の中に、「エッフェル塔」「813という数字」「女性の脚」などが頻出するのはなぜか。ジャン・ルノワールと共に映画の師と仰いだ、ヒッチコックの映画術はいかに応用されたのか。「失敗は才能である」という言葉の意味も見えてくる。(2022.08.10発行)