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「学園ドラマ批判」の学園ドラマ
「自分で考える」を促す御上先生
ユニークで刺激的な「学園ドラマ」が登場した。日曜劇場「御上(みかみ)先生」(TBS系)である。舞台は私立の進学校、隣徳学院。3年2組の新たな担任となったのが御上孝(松坂桃李)だ。
ただし御上は普通の教師ではない。文部科学省の現役官僚だ。官僚が教育現場を知るための派遣制度で、隣徳への出向を命じられたのだ。この「官僚教師」という設定が前例のない学園ドラマを現出させている。
初回の冒頭は、国家公務員試験の会場で起きた刺殺事件だった。文科省内で出向の準備をしていた御上のモノローグが流れる。
「教育を改革する。それがこの硬直した社会を変えるために必要だということは誰もが分かっているのに、そのための本丸であるはずのここは、こんな事件にやけにはしゃいでヤジ馬を決め込んでいる」
これは御上だけでなく、制作陣にとっても一種の闘争宣言だ。学校という限定された空間で展開される単なる教師と生徒の物語ではなく、「この国の教育」という深いテーマに挑む決意表明だった。
御上の派遣には裏がある。文科省から民間研究機関への不正な天下りが行われ、仲介役が御上だと省内でリークがあったのだ。実際は身に覚えのないことだったが、御上は左遷と思われる官僚派遣を拒否しなかった。
その理由を生徒に問われ、「僕が文科省に入ったのは教育を変えるためだ。何も成し遂げないまま文科省を手放すわけにはいかない」と答える。
さらに「志だけで変えられるならとっくに変わっている。官僚が出世したいと思ったら手を汚さずに上には行けない。自分の理想なんてものは横に置いて進めていく先で、ようやくこの国の行政とやらに参加する資格ができる、かもしれない」と続けた。ドラマとはいえ、堂々の「文科省批判」である。
また第2話では「教師像」についての言及もあった。ある学園ドラマが、生徒のために奔走するスーパー熱血教師以外は教師にあらずという空気を作ってしまった。保護者たちの教師に対する要求はエスカレートし、教育の理想を描いた学園ドラマがモンスターぺアレンツ製造マシンとなった。
「以来40年以上、良い教師像はそのドラマシリーズに支配され続けています」と御上。これが「3年B組金八先生」(TBS系)を指しているのは明らかだ。学園ドラマの中での痛烈な「学園ドラマ批判」もそうそうあることではない。
御上が生徒たちに促すのは「自分で考えること」であり、方法論としての「意見交換」だ。その効果はすでに表れ始めている。
(毎日新聞 2025.02.15夕刊)