「週刊新潮」に寄稿した書評です。
三田紀房『ボクは漫画家もどき~イケてない男の人生大逆転劇』
講談社ビーシー 1760円
著者は『ドラゴン桜』や『アルキメデスの大戦』などで知られる人気漫画家だ。しかし、本人は「漫画家もどき」を自称する。描き始めた動機が借金を抱えてのカネ欲しさだったからだ。この自伝的エッセイで語るのは人生の軌跡だけではない。物語は「コメディで始まり、センチメンタルで終わる」。「タイミングをずらしてフェイントをかけてから打ち込む」といった創作の秘密も明かされる。
重信房子『パレスチナ解放闘争史1916-2024』
作品社 3960円
イスラエルのガザ地区への攻撃が激しさを増している。パレスチナ解放の闘いに参加してきた著者によれば、これは「イスラエルとハマースの戦争」ではない。イスラエルによる「民族浄化」だという。では、なぜこのような事態に陥ったのか。パレスチナ国家の樹立とイスラエル国家との共存を目指した、1993年の「オスロ合意」。その破綻をはじめ、いくつもの転換点を指摘する闘争の通史だ。
田家秀樹『80年代音楽ノート』
集英社 1870円
1980年代とは「70年代に芽を出したさまざまな流れが連鎖反応のように一斉に開花していった10年間」。本書は音楽評論家である著者が現場で体感してきた、80年代音楽の同時代史だ。オフコース、松田聖子、YMOの80年にはじまり、大滝詠一、南佳孝、松山千春の81年、小泉今日子や中森明菜などアイドルラッシュの82年と続いていく。ライブの熱、アーティストの思い、時代背景も活写される。
(週刊新潮 2024.05.16号)