黒幕はGHQと「プロレスの父」
斎藤文彦
『力道山──「プロレス神話」と戦後日本』
昭和のプロレスを語る際に外せないのが、力道山、ジャイアント馬場、アントニオ猪木という3人のスーパースターである。中でも馬場や猪木の師である力道山は別格の存在だ。
斎藤文彦『力道山 「プロレス神話」と戦後日本』は、新たな力道山像を創出しようとする試みといえる。力道山とは何者であり、そのプロレスとは何だったのかを探っていく。
1950年秋、関脇だった力道山は突然大相撲引退を表明する。その後プロレスの世界へと向かうが、きっかけは日系レスラーとの出会いだといわれてきた。
だが、著者は調査と取材によってそれを覆す。プロレス転向をすすめた人物はGHQの関係者だった。
定説が出来上がったのは、戦後ニッポンの新しいヒーロー物語から戦争の気配を消し去ろうとした結果であり、神格化の始まりだった。
本書で明らかになっていくのは、力道山は自身の力だけでヒーローになったわけではないという事実だ。「力道山をつくった人びと」がいたのである。
中でも53年に放送を開始したテレビの存在が大きい。日本テレビが草創期のキラーコンテンツとして扱ったからだ。
当時の社長、正力松太郎は「テレビの父」「プロ野球の父」であるだけでなく、テレビという新たなメディアを通じた「プロレスの父」でもあったのだ。
力道山とは、彼にまつわるあらゆるストーリーの総体だと著者は言う。それは個の物語を超えて、昭和の日本人の物語となった。
(週刊新潮 2025年2月6日号)