碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2025】 『僕には鳥の言葉がわかる』ほか

2025年03月02日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

斎藤美奈子『ラスト1行でわかる名作300選』

中央公論新社 2750円

名作の書き出しに注目した著作は少なくない。最後の1行から全体を振り返る発想は著者ならではだ。「読者は無用の憶測をせぬが好い」は森鴎外『雁』。「勇者は、ひどく赤面した」が太宰治『走れメロス』。そして「誰か、礼砲を打つよう、兵たちに命じてくれ」で終わるのはシェイクスピア『ハムレット』である。古今東西300作品の読みどころを縦横に解説していく本書は絶好の再読案内だ。

 

鈴木俊貴『僕には鳥の言葉がわかる』

小学館 1870円

動物はしゃべらない。それは「二千年以上にわたる史上最大の誤解」だと東大准教授の著者。18年以上にわたる研究によって、シジュウカラの言語能力を発見したのだ。鳴き声の一つひとつに意味があり、餌の場所や天敵の襲来も鳴き声で伝合っているという。しかもシジュウカラは文を作って会話する。研究の成果は世界的に高く評価されており、そこに至るトライ&エラーの奮闘エッセイが本書だ。

 

小泉信一『スターの臨終』

新潮新書 1034円

朝日新聞編集委員の著者が末期がん患者となった後、それまでに出会った著名人の死を軸に書き続けたコラム集である。俳優では渥美清、大原麗子、八千草薫。歌手の藤圭子、岡田有希子、八代亜紀。さらに阿久悠やアントニオ猪木なども並ぶ。それぞれの文章が、彼らの軌跡と死を通じて「生きる意味を探る」内容となっている。そして昨年10月、著者は本書の編集作業中に63歳で他界した。合掌。

 

勅使河原真衣『格差の〝格〟ってなんですか?』

朝日新聞出版 1760円

本書には「格」「能力」「タイパ」といった20の概念が登場する。いずれも頻繁に使用されるものばかりだ。しかし、組織開発専門家の著者はそれらに「いぶかしさ」を覚え、検証していく。たとえば「自己肯定感」には、「もっと頑張る、もっと努力する」を前提にしていることへの違和感があるという。人や物事を「分けて」「わかった」気になるのではなく、自らの評価軸を持つことが肝要と知る。

(週刊新潮 2025.02.27号)