碓井広義ブログ

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『プライベートバンカー』が、 日本版『24』唐沢寿明の呪縛を解く

2025年02月22日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

『プライベートバンカー』が、

日本版『24』唐沢寿明の呪縛を解く

 

大人の「マネー入門」ドラマ

唐沢寿明主演『プライベートバンカー』(テレビ朝日系)が、じわじわと面白くなってきました。

思えば、面白い題材を持ってきたものです。

タイトルの「プライベートバンカー」とは、富裕層のための資産管理・運用を専門とする金融のプロフェッショナル。

主人公の庵野甲一(唐沢)が存在感を放っているのは、顧客の資産を守るためならどんな雑務も厭わず、あらゆる手段を駆使するからでしょう。

元々の雇い主は、外食業界のドンである天宮寺丈洋(橋爪功)。

その依頼で、投資詐欺に遭った老舗だんご屋の主人・飯田久美子(鈴木保奈美)を救ったり、天宮寺家の長男で常務取締役の努(安井順平)が抱える愛人問題を解決したりしてきました。

直近の第4話では、天宮寺家を仕切っている丈洋の妻・美琴(夏木マリ)から、次男で代議士の昴(吉田ウーロン太)のスキャンダルを防ぐよう厳命されました。

昴の「パパ活問題」に対処する庵野。その過程で、昴の恩師でもある大物政治家・久松(堺正章)の「裏金作り」を見抜きます。使われていたのは「暗号資産」でした。

このドラマの特色は、物語を通じて資産や投資や相続に関する「制度」や「仕組み」や「裏技」が明かされること。

同時に、マネーをめぐるサスペンスや悲喜劇を堪能できる。面白くてタメになる、いわば大人の「マネー入門」ドラマなのです。

俳優・唐沢寿明の「成熟度」

何より、唐沢さんが演じる庵野のキャラクターが見る側を飽きさせません。

銀髪に黒ぶちメガネ。雨傘を手にした英国紳士風のたたずまい。豊富な金融の知識や経験から繰り出される、見事な奇手・奇策。

時々、カメラ(視聴者)に向かって独白するのですが、その本心は見通せない。全体として、堂々の「座長芝居」です。

ここで近年の唐沢さんを、ちょっと振り返ってみましょう。

たとえば、2016年の『ラストコップ episode0』(日本テレビ系)。最大のウリは「昭和のデカ(刑事)」である京極(唐沢)の破天荒ぶりでした。

周囲の空気をまったく読まない言動。暴走ともいえる強引な捜査。連発される親父ギャグ。見る側もちょっと困った珍刑事でした。

また、19年の『ボイス』(日本テレビ系)の舞台は、神奈川県警港東警察署の「緊急指令室」。唐沢さんが演じたのは出動班の樋口です。

これまた絵に描いたような昭和のデカで、直情径行&暴力上等の熱血漢。ニックネームは、やや恥ずかしい「ハマ(横浜)の狂犬」です。

樋口は48歳の設定でしたが、当時56歳だった唐沢さんが演じるのは、ちょっと痛い感じでした。

そして20年の『24 JAPAN』(テレビ朝日系)。なんとびっくり、アメリカの『24 -TWENTY FOUR-』の日本版リメークでした。

オンエア時点で、本国でシーズン1が放送されたのは19年前。日本でも16年前のことです。出すべき時期を逃した「証文の出し遅れ」感は否めませんでした。

キーファー・サザーランドが35歳で演じたジャック・バウアーを、57歳だった唐沢さんが引き受けたのは立派です。

しかしドラマ全体は、主人公の獅堂現馬(唐沢)など登場人物も物語の流れも、基本的にはオリジナルをなぞっているはずなのに、ゆるふわな雰囲気は最後まで変わりませんでした。

これらと比べると、今回の主人公・庵野甲一は、現在の唐沢さんの「成熟度」と完全にマッチしています。その押し出しの良さも、人物の奥行きも、見せる余裕やユーモアにも無理がない。

どんな難題も「わたくしにお任せください」と自信満々で引き受け、実際にそれを達成していく有言実行ぶりが痛快です。

どこか呪縛が解けたような、突き抜けた快演。この『プライベートバンカー』は、唐沢さんの代表作の1本になるかもしれません。

 


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