「週刊新潮」に寄稿した書評です。
吉田広明
『映画監督 ドン・シーゲル~ノワールを遠く離れて』
作品社 3520円
クリント・イーストウッド主演『ダーティーハリー』などで知られる、ドン・シーゲル。本書では、スタジオ・システムの中で育った職人映画作家が、類型を反復することで達した境地が明らかになる。最も力を入れたのはスクリプト(撮影台本)作りだ。内面の表現よりも状況とそれに対するアクションが重視された。芸術的野心とは無縁。娯楽作品の監督に徹したことで〝無冠の帝王〟となった。
村瀬春樹
『あのころ、吉祥寺には「ぐわらん堂」があった。』
平凡社 4950円
音楽を聴かせる店「武蔵野火薬庫/ぐわらん堂」が開店したのは1970年。数多くのライブやイベントが企画され、大人たちが信奉する「メインカルチャー」に異を唱える、「カウンターカルチャー=対抗文化」の拠点となった。著者はこの秘密基地のような店の主宰者。回想記である本書では、友部正人や高田渡などはもちろん、無名の若者たちとの交流も語られる。15年にわたる「伝説」の記録だ。
植田紗加栄
『井上ひさし外伝~映画の夢を追って』
河出書房新社 3520円
井上ひさしが亡くなってから15年になる。本書は「映画」を軸にその生涯を辿ったノンフィクションだ。小学校時代に始まる映画漬けの日々。高校の三年間で1000本も観ている。そんな井上が「日本映画界で最高の監督」と評したのが工藤栄一だ。また黒澤明も絶対的な存在だった。さらに米国製ミュージカル映画が井上の戯曲に与えた影響も検証されていく。その映画愛は晩年まで不変だった。
(週刊新潮 2025.03.06号)