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フジテレビ「月9ドラマ」対談
Part2
職業モノ、ミステリーの台頭
――2000年以降の月9は、主人公のキャリアや個々の成長、コメディ要素も重視されるようになりました。
碓井広義 職業モノとミステリーの増加が目立ちますね。職業モノで代表的なのが『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-(第2シーズン)』(10年)。その魅力は、チーム全員が主役であることです。ドクターヘリという、これまであまり知られていなかった医療現場にスポットライトを当て、そこで働く医師や看護師たちが、命の最前線で協力し合いながら困難を乗り越えていく姿が描かれています。
一人ひとりが抱えるプレッシャーや恐怖、そして医療に対する情熱が深く掘り下げられている。キャスト陣も豪華で、山下智久(39)をはじめ、新垣結衣(36)、戸田恵梨香(36)ら主演級の俳優が集結。それぞれが強い個性と成長を見せ、観る者に共感と感動を与えました。
――ミステリーは、「ガリレオ」シリーズ(07年、13年)や、『鍵のかかった部屋』(12年)、『ミステリと言う勿れ』(22年)などがありますが、いずれ変人が主人公です。個人的に、『ミステリと言う勿れ』の菅田将暉(31)が一番インパクトがありましたが、どうですか?
碓井 菅田が演じた天然パーマの大学生・久能整の哲学的な視点や独特な考え方についていけないという人もいましたが、それは制作側の想定内であり、“確信犯”なのかなと思います。結果、初回1週間のTVer見逃し配信再生数が424万を超える好評を博し、劇場版も作られましたから。こうやってミステリードラマの幅が広がっていくのでしょう。
時系列が前後しますが、『コンフィデンスマンJP』(18年)も月9の幅を広げた作品だと思います。『コード・ブルー』と同じくチームが主役ではあるけど、正義のために結成されたチームではなく、詐欺師の集団。ただ、ターゲットは悪事を働く富裕層や権力者が多く、彼らに対して「正義の詐欺師」たちが罰を与える。
やっていることは間違いなく犯罪ですが、まるで江戸時代の義賊のような存在でスカッとさせます。オリジナル脚本もしっかりしており、エピソードの最後には必ず「どんでん返し」が仕掛けられています。毎回「また騙そうとするでしょ」と身構えますが、まんまと騙される自分がいました(笑)。
『やまとなでしこ』の“新ヒロイン”
田幸和歌子 恋愛モノが減ったという話がありましたが、00年以後、月9で描かれた恋愛は新しいヒロイン像をいくつも誕生させています。
まず挙げたいのは『やまとなでしこ』(00年)。松嶋菜々子(50)が演じた主人公・桜子は、才色兼備のスチュワーデスで、幼少期の貧しさから「お金こそが幸せの鍵」という信念を持って生きています。
彼女は「玉の輿」に乗ることを目標とし、真実の愛を信じていないというキャラクター設定が非常に斬新で、視聴者に強い印象を与えました。だがそんな桜子が最終的に恋に落ちた相手は貧しい魚屋。「お金よりも大切なもの」に気づいていく過程が描かれていて、奥深いテーマのラブコメでした。
隠れた名作もあります。杏(38)と長谷川博己(47)の月9初出演となった『デート〜恋とはどんなものかしら〜』(15年)は、他の恋愛ドラマとは一味違ったユニークさと心温まる感動が詰まった作品です。杏は経済学の博士号を持つ超理論派で、ロボットのような女性。
一方でハセヒロは自称「高等遊民」の引きこもりニート。恋愛に不器用な二人が自分自身を見つめ直しながら少しずつ変わっていく様子がコミカルに描かれています。恋愛に臆病な若者が増えているこの時代にこそ観たい作品ですね。
碓井 月9のテーマが時代とともに変化し続け、今年は新境地に達しました。7月期の月9『海のはじまり』は、恋愛ドラマでもないし、家族ドラマでもない。主人公の夏(目黒蓮・27)は突然、別れた恋人・水季の死と、水季と自分の間に娘がいたことを知らされる。
夏が現在の交際相手や水季の周りの人、そして娘と向き合っていく物語ですが、観ていて単純に共感や思い入れでは済まない、まるで「君たちはどう生きるか」と問われているような気分になります。
作品全体は同局の話題作『silent』の静けさを受け継ぎ、誰も大声で叫んだりしない。だけど、登場人物たちの胸の痛みがじわじわと伝わってきます。人間の本質的な部分をじっくりと描いていて、とても奥深いテーマになっています。
――古い名作から最近のドラマまでたっぷり語らってきましたが、そろそろ「最強の月9ドラマ」を決めていただきたいと思います。
碓井 僕個人の最強は『HERO』です。法廷シーンのクオリティが高く、家庭を大事にしつつ同僚と不倫する検察官(阿部寛・60)や保身で頭がいっぱいの部長検事(角野卓造・76)など、キャラクターたちに大変魅力があります。事務官も松たか子(47)、小日向文世(70)、八嶋智人(53)と芸達者ばかり。月9の可能性を広げた特別な作品に違いありません。
もう一つ挙げるとするならば、『コンフィデンスマンJP』です。個性的な詐欺師キャラクターが生き生きと描かれており、悪役だけでなく視聴者まで巧みに騙す巧妙なストーリーテリングに、他にはない特別な魅力を感じます。
田幸 個人的にもっとも好きなのは『のだめカンタービレ』ですが、『コンフィデンスマJP』は確かに素晴らしい。作品自体の認知度が高く、月9で放送されたことを知らない人も多いはずです。月9の枠を超えた名作、という意味で『コンフィデンスマンJP』が最強なのではないかと思います!
(FRIDAY 2024.10.11号)