「週刊新潮」に寄稿した書評です。
岡田暁生『クラシック音楽の大疑問』
角川選書 1540円
どこか難解そうで、ずっと敬遠してきたクラシック音楽。でも、最近ちょっと気になっている。そんな人に最適な入門書だ。クラシック音楽の「クラシック」とは何か。「音楽の父」バッハの何がすごいのか。ベートーベンはそんなに偉大なのか。素朴な疑問に専門的かつ分かりやすく答えてくれる。クラシックというジャンルを超えて、「音楽って何?」という本質にも迫る、熱い音楽談義だ。
松本俊彦、横道誠
『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』
太田出版 2420円
精神科医の松本によれば、人はみな何かしらに「依存」している。問題なのは「依存症」なのだ。薬物やギャンブルに執着するのは快感のためではなく、「苦痛の緩和」だという。しかも短期的には今の辛い状況に踏みとどまり、一時的に生き延びることに役立つこともある。そんな奥深い依存症の世界を、当事者同士が往復書簡の形で語り合ったのが本書だ。見知らぬ自己を発見する一冊でもある。
チャールズ・M・シュルツ:著、
谷川俊太郎:訳、桝野俊明:監修
『生きるのが楽になるスヌーピー~心をゆるめてくれる禅の言葉』
光文社 1540円
右ページにはスヌーピーたちのエピソードが、左ページにはそれを材料にした禅僧・桝野俊明の禅エッセイが置かれている。たとえば、山歩きをしていて「雲は雲の道を行き、我々は我々の道を行く」とつぶやくスヌーピー。該当する禅語は、流れの中でも「自分は自分であれ」と説く「終日看山又看雲(しゅうじつやまをみ、またくもをみる)」だ。ランダムに本を開くだけで気持ちが和らいでくる。
関口裕士『言葉の現在地 2017-2024』
北海道新聞社 1980円
新聞編集委員の著者が、心に残る言葉、記録すべき言葉を掘り下げた連載が一冊になった。沖縄戦や基地問題をテーマにしたドキュメンタリー映画の監督・三上智恵は「軍隊は市民を守らない」と繰り返し言う。また戦前から令和までを体験してきた俳優・黒柳徹子は、今の社会について「周りの空気が以前と比べて何となく、自由でないような感じがしています」と語る。言葉を生み出すのは人だ。
(週刊新潮 2024.10.10号)