「Nスペ」戦争特集の試み
可視化された戦場の現実
可視化された戦場の現実
かつて8月になると、「戦争」をテーマにした番組を何本も目にしたものだ。しかし最近の民放ではあまり見かけなくなった。その分、NHKの健闘が目立つのかもしれない。
8月11日に放送されたのはNHKスペシャル「祖父が見た戦場-ルソン島の戦い 20万人の最期-」(制作=名古屋放送局)だ。
「ためしてガッテン」などで知られる小野文恵アナウンサーが、ルソン島で戦死した祖父の足跡をたどった。亡くなった場所も日付も不確定だが、最近公開された、アメリカ公文書館の極秘資料が手がかりとなる。
そこにはアメリカ軍がルソン島で確認した、日本兵の遺体の数と場所が記録されていた。このデータを島の地形図に重ねることで、戦いの進行状況がわかってくる。
つまり20万人の日本兵がいつ、どこで戦死していったのかが可視化されるのだ。地図上に刻々と増えていく無数の赤い点。その一つ一つが人の命であることを思うと胸がつまる。
そしてデータと同様、当時を知る貴重な情報となったのが、生き残った元兵士たちの証言と持ち帰った日誌などの資料だ。そこからは悲惨な戦場の様子が浮かび上がってきた。飢えのあまり、亡くなった同僚の革靴を煮て食べる者がいる。傷病兵たちに自決用の手りゅう弾や毒薬が配られただけでなく、銃剣によって命を奪われた者もいたという。
大本営はルソン島の戦いを本土防衛のための時間稼ぎと位置づけ、食糧を送らない「自活自戦」や、投降を禁じる「永久抗戦」を現地に強いた。敗走する祖父たちがさまよったジャングルに立った小野アナの思いを、視聴者も共有できたのではないだろうか。
もう1本、可視化された戦場の現実を見せてくれたNスペがあった。8月13日放送の「船乗りたちの戦争-海に消えた6万人の命-」(制作=大阪放送局)だ。
戦時中、軍に徴用され沈没した民間の船は7千隻。犠牲者は約6万人に達した。その中には危険な海上監視の任務についた、「黒潮部隊」と呼ばれる小型漁船と漁師たちも含まれている。
この番組では、やはりアメリカ側の資料を基に、広い太平洋のどこで、いつ民間船が沈没したのかを地図上に示していった。3年4カ月の間、なんと1カ月に100隻のペースで船が失われていく。
十分な武装も持たない民間船が、猛烈な攻撃にさらされる様子を思うにつけ、軍部のずさんな計画と実行、そして不都合なデータを示さない隠蔽(いんぺい)体質にも強い憤りを感じた。
(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2018.09.01)