碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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今年のドラマ~社会問うた「ふてほど」「虎に翼」

2024年12月09日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 

 

<Media NOW!>

今年のドラマを振り返る 

社会問うた「ふてほど」「虎に翼」

 

長い夏と短い秋を経て師走に入った。少し早めだが、この1年のドラマを振り返ってみたい。

1月期で光っていたのが「不適切にもほどがある!」(TBS系)だ。脚本は宮藤官九郎。主人公は1986(昭和61)年から現在へとタイムスリップしてきた小川市郎(阿部サダヲ)である。

市郎は生粋の「昭和のおじさん」だが、「未来の日本」で遭遇する拭えない違和感に対しては「なんで?」と問いかける。コンプライアンス社会をストレートに批判するのではなく、笑いながらの批評だ。

時代や世代や個人間に「ギャップ」があるのは当たり前。「差異」を否定し合うのではなく、違いを前提に話し合いを重ねて「共通解」を探り、「共存」していこうとする市郎が新鮮だった。

4月から9月まで放送されたNHKの連続テレビ小説「虎に翼」。ヒロイン・寅子(伊藤沙莉)のモデルは三淵嘉子だ。戦前に初の女性弁護士の一人となり、戦後は初の女性判事となった。

司法界の「ガラスの天井」を打ち破っていった嘉子の軌跡は、戦前・戦後における試練の女性史だ。それはドラマにも十分反映されており、画期的な社会派の朝ドラとなった。

一見、堅苦しくなりそうな物語だったが、吉田恵里香の脚本と伊藤の演技に救われた。寅子が納得のいかない事態に遭遇した時に発する「はて?」は、見る側の心の声も代弁する名セリフとなった。

ただ、さすがに後半は少し詰め込みすぎだったかもしれない。「戦争責任」「原爆裁判」「尊属殺の重罰」「少年法改正」などが並び、さらに「同性婚」「夫婦別姓問題」といった現在につながる課題も取り込んでいった。

しかし、それも制作陣の確信犯的仕掛けだったはずだ。憲法第14条が明記する「法の下の平等」や「差別禁止」は、どのような経緯をたどってきたのか。そして、今の社会においても本当に実現されているのか。この問いかけこそ本作を貫く大きなテーマだ。

現在放送中のドラマでは、日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」(TBS系)が際立っている。1950年代後半の炭鉱の島と2010年代後半の東京を舞台に、異なる時間と場所に生きる人々の人間ドラマが展開されていく。

描かれるのは主人公・鉄平(神木隆之介)をはじめとする若者たちの恋愛模様だけではない。脚本の野木亜紀子は、風化させてはいけない出来事としての戦争や原爆被爆も物語に丁寧に織り込んでいく。「昭和99年」である今年の掉尾(ちょうび)を飾るにふさわしい一本だ。

(毎日新聞 2024.12.07 夕刊)