碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

週刊文春で、「チコちゃんに叱られる!」についてコメント

2018年09月22日 | メディアでのコメント・論評



「チコちゃんに叱られる!」に
文春記者も叱られた!?  
NHK人気番組の秘密

「ボーっと生きてんじゃねえよ!」

素朴な疑問に答えられない大人を、5歳の少女が罵倒する人気バラエティ番組『チコちゃんに叱られる!』(NHK総合 金曜19時57分~)。人気の秘密を探るべく取材すると、意外な経歴を持つ人物に行き当たった。

特番を経て、4月からレギュラー放送が開始されたこの番組。8月末放送分では視聴率が14%を突破し、しかも本放送の視聴率を再放送が上回る状態が続くという異例の快進撃。7月のギャラクシー賞月間賞も受賞した。

2.5頭身の着ぐるみの少女、チコちゃん(声・木村祐一)が、MCの岡村隆史らに「『どっこいしょ』ってどういう意味?」「なんで牛乳を飲むとき腰に手をあてるの?」「『あす』と『あした』は何が違う?」等々、大人には今さら浮かびにくいシンプルな疑問を投げかけ、回答を迫る。答えられないとき、チコちゃんが頭から湯気を出しつつ放つのが冒頭の決めゼリフだ。

上智大の碓井広義教授(メディア文化論)が語る。

「大人は知っていて子供が知らないという通常の構図を逆転させ、子供が大人をタジタジにさせる。設問が絶妙で、たしかに……と視聴者も考え始めてしまう仕組みをうまく作っています」


NHKらしい丁寧なつくりと、NHKらしからぬ遊び心。その両立が成功の秘密か……などとボーっと考えている小誌記者の前に現れたのは、番組作りの陣頭指揮を執る小松純也プロデューサー(51)。実は氏は、制作会社の共同テレビに出向中のフジテレビ社員。『ダウンタウンのごっつええ感じ』『SMAP×SMAP』などフジ黄金期のバラエティに携わった辣腕で、雑学バラエティの名作『トリビアの泉』にも関わっていた。

「チコちゃんはどうやって生まれたの?」

小松氏に素朴な質問をぶつけてみたところ、頭から湯気を出すことなく、丁寧に答えてくれた。

〈4年ほど前、(共同テレビの)ディレクターの河井二郎が相談に来たんです。『アイスクリームの賞味期限はいつまでか?』といった素朴な疑問を解く企画でした。どういう形の番組にしたらいいですか?  と訊くので、女の子が質問して、答えられなかったら『ボーっと生きてんじゃねえよ!』と怒るのはどう?  と。その後、番組化が進まなかったのですが、NHKさんに受け入れてもらえたんです〉(小松氏 以下ヤマカッコ部分同じ)

当初から存在したチコちゃんの罵倒フレーズ。企画を仕上げる上でベースになったのは、『笑っていいとも!』で小松氏が担当した「君たちは漫然と生きていないか?」というコーナーだった。信号の3つの色は何?  といった至極簡単なクイズに100問全問正解すれば海外旅行が当たるのだが、なぜか回答者たちは途中でつまずいた。

〈漫然と生きていては、気づくものも気づかない。その状態を面白がる感覚があったんでしょうね。もう一つは『日本のよふけ』(フジ 1999年~2003年)というシリーズ。赤ちゃんが葉巻を咥(くわ)えている『赤さん』というキャラクターがいたんです。その2つの要素が結びついて『チコちゃん~』になった。人間の思いつきには広がりがない、ということですね(笑)〉

森田アナは「正直戸惑いました」

チコちゃんの首から下は着ぐるみで、顔だけCGになっている。出演者と木村祐一のやり取りを収録した後、CG担当者がセリフに沿って顔を作るという。

チコちゃんに劣らないインパクトを視聴者に残すのが、「すべての日本国民に問います」と迫る、ナレーションの森田美由紀アナウンサー。『NHKアーカイブス』などの落ち着いた語り口で知られる大ベテランだ。

〈僕らはとにかく森田さんの声の大ファンで、やっていただけるのでしょうかという感じだったんですけど……。ときには『こういうことを世間の人に言うのは失礼だと思います』ときっぱりおっしゃるので、番組的には良いストッパー(笑)。テレビマンの先輩として、森田さん基準で演出を考えているところはあります〉

森田アナもコメントを寄せてくれた。

「NHKスペシャル風のナレーションというご要望でしたが、いざ原稿を見ると、『今こそすべての日本国民に問います』を始め、上から目線の文言が多く、正直戸惑いました。

私の読み方が番組に合っているのか、視聴者や出演者のみなさんに失礼すぎるコメントではないか、今も迷い、冷や汗をかきながら楽しませて頂いています」

番組の肝は、なんといってもチコちゃんが投げかける「疑問」だ。シンプル過ぎて出演者たちが戸惑う絶妙な問題を、どのように考えているのだろうか。

〈スタッフが日常の中で感じたものをアイデアにし、答えまで調べた段階で、僕のところに持ってきます。疑問が真っ当でありさえすればやる、と言っているのでネタは際限なくありますが、大事なのはそれを視聴者のみなさんが楽しめる娯楽に仕立てること。そのために時間をかけ、あらゆる工夫をしています〉

「名疑問ベスト3」は?
 
いい疑問は浮かんだが、答えが出ないこともある。

〈たとえば『なぜ左投げ投手のことをサウスポーって言うの?』。調べたけどわかりませんでした。でも、わからなかった、ということをネタにして放送しました。この番組の趣旨は、隠されている事実を知るということもありますが、それより、日常的に疑問を抱かずにいたことを改めて調べてみると、いろんな面白いことが出てきますよ、というものですから〉

小松氏にとっての「名疑問ベスト3」は何だろうか。

〈スタッフに、これが一番いい疑問だ、と言い続けているのが『人と別れるときに手を振るのはなぜ?』。なぜだかわからないけど誰もがやっていることだとか、みんながわかっている前提で暮らしているけど、なぜそうなのか改めて問われると答えられない、という部分を突いているのが一番いい問題ですね〉

次に挙げたのが、今後放送予定だという疑問。「鏡はなぜ左右逆に映るのか?」

〈これ、すっごく難しいんですよ!  プラトンが最初に言い出して、わからないまま死んでいったんですけど。わかりやすいと思うでしょ?  物理的には簡単なんです、光の反射だけで説明すれば。ただ、人間の意識に踏み込んでいくと、これが……(以下略)〉

最後に、答えを聞くと愕然としてしまう「親と一緒に過ごせる残り時間は?」。

〈盆暮れに里帰りする場合だと、一年に24時間程度しか一緒にいないことになる。大ざっぱにいうと、親の余命が10年ならあと10日しかない、ということ。親が我が子と過ごせる残り時間も紹介しましたが、高校を卒業して親元を巣立ったら、一緒の時間の73%は終わっている。

目の前にあるものが大切に思えたり、心に刺さったりするような気づきも、たまには提供したい。視聴者のみなさんに『自分事』にしてもらう過程を、チコちゃんの不意打ちによって、短いストロークで突いていきたいと思っているんです〉

親と共にいられるはずの時間を怠惰に空費している小誌記者、このままではチコちゃんに叱られる! 

チコちゃんは、ボーっと生きている視聴者をも覚醒させているのだった――。

(週刊文春 2018年9月20日号)




HTB北海道テレビ「イチオシ!」 2018.09.21

2018年09月22日 | テレビ・ラジオ・メディア























HTB北海道テレビの新社屋

2018年09月22日 | テレビ・ラジオ・メディア































【気まぐれ写真館】 今月も、札幌「まる山」鴨せいろ

2018年09月22日 | 気まぐれ写真館



2018年09月21日(金)

テレ朝ドラマの“大関クラス”に成長した「遺留捜査」

2018年09月21日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評


上川隆也「遺留捜査」は
テレ朝ドラマの“大関クラス”に成長

13日、「遺留捜査」(テレビ朝日系)が終了した。主人公の糸村(上川隆也)が、東京から京都府警特別捜査対策室へと異動したのは昨年の第4シリーズでのことだ。

今期、佐倉(戸田恵子)は室長代理に出世していたが、同僚の神崎(栗山千明)との珍コンビや、科学捜査係官・村木(甲本雅裕)との笑えるやりとりは変わらない。

この「変わらない」ことがシリーズものでは大切で、その最たるものが糸村の観察眼と遺留品に対する並外れたこだわりだ。

たとえば第8話では、古びた空き缶1個が突破口になった。30年前の事件に関係した男の死体発見現場にあったものだ。糸村は、男が病気の息子のために、空き缶にアルミホイルを巻いてロウ管式録音機を作っていたことをつきとめる。

また最終回では、ガス管に使われる黄色い円筒だった。殺人を犯した姉(観月ありさ)の罪をかぶった弟(三浦涼介)が、姪(山口まゆ)の誕生日に手作りの万華鏡を贈ろうとしていたのだ。簡易録音機にも万華鏡にも作った人が抱える事情や込められた思いがあり、糸村がそれをすくい上げていく。このドラマが支持されるのは、遺留品を通じて人間の情や絆を丁寧に描いているからだ。

同じく定番の「相棒」や「ドクターX」などがテレ朝ドラマシリーズの横綱なら、「遺留捜査」も堂々の大関クラスに成長したと言っていい。

(日刊ゲンダイ 2018年09月19日)



カネボウ化粧品CMに、キティちゃん登場!

2018年09月20日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム



カネボウ化粧品「コフレドール」
キレイ・カワイイ 
地上最強コラボ

ニューヨークだろうか。霧に包まれた夜明けの街を歩いてくるのは菜々緒さんだ。

すると、そこにたたずむ、もう1人の美女が。おしゃれなドレスに真っ赤なリボン。なんとキティちゃんではないか。静かに見つめ合った2人は、ラストのポージングも完璧に決めてしまう。

著書『なぜ世界中が、ハローキティを愛するのか?』で知られるハワイ大学の民族文化研究者、クリスティン・ヤノ教授にお会いしたことがある。

4年前の夏、『ロサンゼルス・タイムズ』紙で公表した、「キティちゃんは猫ではなく、小さな女の子」という事実は、世界中のファンに衝撃を与えた。

そんなヤノ教授によれば、キティちゃんこそ「ピンクのグローバリゼーション」であり、「キュート」「女性性」「セクシー」の3つを体現する稀有なキャラクターだという。

菜々緒さんとキティちゃんの初共演。それはキレイとカワイイの合体であり、地上最強のコラボでもあったのだ。

(日経MJ「CM裏表」 2018.09.03)



クリスティン・ヤノ教授と、ハワイ大学の研究室で

【気まぐれ写真館】 九月の空

2018年09月20日 | 気まぐれ写真館
四ツ谷 2018.09.19

書評した本: 『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』ほか

2018年09月19日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


貴志謙介 
『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』

NHK出版 1836円

戦後ゼロ年とは敗戦直後の1年間を指す。東京租界、地下政府、隠匿物資、そして占領軍。民主改革の大義名分に隠れて、「世界最大の親米国家」への日本改造計画が進められていた。近年、米国で機密資料が公開され、深い闇に光が当たり始めた。本書はその第一歩だ。


マイケル・コリンズ他 :著、
樺山紘一:監修 
『世界を変えた本』

エクスナレッジ 4104円

30センチ×25センチの大型本。美しいビジュアルと共に紹介されるのは『死者の書』、『源氏物語』、『グーテンベルク聖書』、『種の起源』など80冊以上の歴史的名著だ。著者、内容、さらに後世への影響についても詳述。世界を変えただけでなく、世界を形づくった本たちだ。


石井光太 
『原爆~広島を復興させた人びと』

集英社 1728円

原爆の影響で「75年間は草木も生えない」と言われた廃墟の町は、いかにして国際平和文化都市「ヒロシマ」となっていったのか。建築家・丹下健三や原爆資料館初代館長など4人の男たちの取り組みを探るノンフィクションだ。広島の風景が違って見えてくる。

(週刊新潮 2018年9月6日号)


岡野誠 『田原俊彦論』
青弓社 2160円

今年6月、田原俊彦は74枚目のニューシングルをリリースした。本書は57歳の現役アイドルの全体像に迫る、初の本格評論である。歌番組『ザ・ベストテン』との共栄。ドラマ『教師びんびん物語』の衝撃。独立と「ビッグ発言」等々。40年にわたる芸能界戦記だ。

(週刊新潮 2018年8月30日号)

今年の夏ドラマは、「朝ドラ」銘柄女優たちの試金石!?

2018年09月18日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


今年の夏ドラマは
「朝ドラ」銘柄女優たちの試金石!?

「朝ドラは新人女優の登竜門である」とは、昔からよく言われることです。確かに、新人時代に「朝ドラ」の主役に抜擢され、その後、大きく成長していった女優さんは大変な数になるでしょう。

また、最近の傾向として面白いのは、「朝ドラ」の主役だけでなく、ナンバー2、ナンバー3、いえ、“その他”と呼ばれていた新人が注目され、人気を集め、その後は主演女優に負けない活躍を見せることが多いことだと思います。

そうした人たちを、私は「朝ドラ」銘柄女優と呼んでいます。「朝ドラ」女優というと、やはり「朝ドラ」のヒロイン、主役を担った女優さんだけを指してしまうからです。「朝ドラ」の“関連銘柄”の女優さんという意味で、「朝ドラ」銘柄女優です。

一番わかりやすいのは、「朝ドラ」銘柄女優から「朝ドラ」女優へ、というステップアップでしょうか。近年でいえば、『あまちゃん』で銘柄女優となり、『ひよっこ』で朝ドラ女優となった有村架純さんが好例でしょう。その後の有村さんの成長は、皆さん、ご存じの通りです。

『チア☆ダン』(TBS系)

今期、民放の連ドラで、ヒロインを演じている「朝ドラ」女優の一人が、『チア☆ダン』(TBS系)の土屋太鳳さんです。

土屋さんの朝ドラは、高校を卒業後に就職した市役所を辞めて、パティシエを目指して奮闘する女性がヒロインだった『まれ』。あの放送から、もう3年が過ぎた土屋さんですが、『チア☆ダン』では、また女子高生に戻って踊っています。

『チア☆ダン』には、『ひよっこ』でヒロイン・谷田部みね子(有村)の親友・助川時子を演じて「銘柄女優」となった、佐久間由衣さんが出ています。土屋さんと同じく、女子高生のチアダンス部員の役です。

時子は確か、高校卒業後に集団就職し、やがて「ツイッギーそっくりコンテスト」で優勝して、芸能界デビューを果たしたんですよね。そんな彼女の女子高生姿は、土屋さん同様、時間が戻ってしまったような、不思議な感じがします。きついことを言えば、2人とも、今、この役柄を演じていていいのかな、ってことですが。

まあ、それはともかく、このドラマの中で、今後「朝ドラ」に挑戦するかもしれない新星たちが競い合っていることも、特色の一つでしょう。

たとえば、映画『ソロモンの偽証』でブルーリボン賞新人賞を受賞した石井杏奈さん。映画『桜ノ雨』で主演の山本舞香さん。「♪淡雪・・」と歌う、アイスクリームのCMで注目の箭内夢菜(やないゆめな)さん。さらにチアダンス部員ではありませんが、ポカリスエットのCMで踊っている美少女、八木莉可子さんもいます。次代のヒロイン候補たちにとって、まるでリアルオーディションみたいなドラマなのです。

『この世界の片隅に』(TBS系)

えーと、話は『ひよっこ』に戻りますが、実は「銘柄女優」の宝庫ともいえる作品でした。

佐久間さんはもちろん、みね子が集団就職で入社した向島電機の同期、青天目(なばため)澄子を演じて注目されたのが松本穂香(まつもとほのか)さんです。松本さんはご存知のように、今期、日曜劇場『この世界の片隅に』(TBS系)のヒロイン、北條すずを好演しています。

印象としては、「メガネっ子の澄子」1発で(笑)、この大抜擢。すずというヒロインと松本さんのキャラクターが、いかに近かったかということでしょう。日曜劇場という大舞台のプレッシャーは凄いはずですが、しっかり演じ切るかどうかで、今後の「女優・松本穂香」の行方が決まります。

また、『この世界の―』には、松本さんの他に2人の「銘柄女優」が登場しています。1人は、すずの嫁ぎ先のご近所の主婦、堂本志野役の土村芳さん。

土村さんは朝ドラ『べっぴんさん』で、ヒロイン・坂東すみれ(芳根京子)の女学校時代からの親友であり、一緒に子供服の会社を興す村田君枝を演じていました。その”昭和っぽい”顔立ちやたたずまいは、このドラマでも存分に生かされています。

そして2人目が、すずの嫁ぎ先の隣の娘であり、すずの夫・周作(松坂桃李)とは幼馴染で、彼にずっと憧れを抱いていた、刈谷幸子を演じている伊藤沙莉さんです。

この伊藤さん、『ひよっこ』では、みね子の同級生・角谷三男(泉澤祐希)が東京のお米屋さんに就職しますが、その店の“お嬢さん” 安部さおりでした。三男くんにガンガン迫ってましたよね。

伊藤さんは、いわゆる美人女優というタイプではないのですが(失礼!)、視聴者が目を離せなくなる、強い存在感があります。ヒロインを追い詰める、ちょっと怖い役柄なんかさせたら、うまいでしょうね。

『恋のツキ』(テレビ東京系)

そんな伊藤さんが起用されている、今期のもう1本が、深夜ドラマの『恋のツキ』(テレビ東京系)です。ヒロインが働いていた映画館(館主が、きたろうさん)のバイト仲間、清水晴子の役です。どろどろの二股恋愛に陥る主人公を冷静に見ていました。

この『恋のツキ』の主演女優は、徳永えりさんです。とはいえ名前を聞いて、すぐに顔が浮かぶ人ばかりじゃないでしょう。

まず、朝ドラ『あまちゃん』で、主人公・天野アキ(能年玲奈、現在はのん)の祖母、「夏ばっぱ」こと天野夏(宮本信子)の“若き日”を演じていました。

また『わろてんか』では、ヒロイン・てん(葵わかな)の世話をする女中さんで、後に「北村笑店」の番頭・風太(濱田岳)の妻となった、トキの役でした。

『恋のツキ』の主人公・平ワコ(徳永)は、30歳を超えたばかりのごくフツーの女性です。映画館でアルバイトをしながら、同い年の彼氏・ふうくん(渡辺大知)と3年越しの同棲中。ワコは結婚を意識しているが、ふうくんは煮え切らない。

近々両親のところに2人で行こうというタイミングで、ワコの前に伊古ユメアキ(神尾楓珠 かみおふうじゅ)という別の男性が現れます。しかも彼は16歳年下の高校1年生。ワコは彼氏のことを隠すが、ふうくんにユメアキのことがバレると同時にユメアキもふうくんの存在を知ってしまう。さあ、どうする、どうなる?

特筆すべきは、徳永さんの体当たり演技です。いや正確に言うなら、体当たり的な「濡れ場」も躊躇しない女優魂です。アパートの布団の上や浴室で、ラブホで、はたまた映画館の片隅でと、2人を相手に、自然かつ濃厚なベッドシーンを演じています。

徳永さんは、一見地味な、これまたフツーな感じの女優さん(そこがいいのですが)なので、かなりの演技派ですが、ふだんは脇役が多いんですね。

でも、このドラマのように「同年代女性の等身大のリアル」をやらせたら、ハマります。ずっとツイてない自分が選ぶべき恋はどれなのか。1人になることを恐れて揺れる“適齢期オンナ”の心情は、徳永さんの独壇場と言っていいでしょう。

『健康で文化的な最低限度の生活』(フジテレビ系)

実は、この徳永さんも、伊藤沙莉さんと同じく、今期、もう1本のドラマに出演しています。それが『健康で文化的な最低限度の生活』(フジテレビ系)です。

物語の舞台は、東京都東区役所生活課。主人公の義経えみるは、学生時代に映画監督を目指していましたが、自身の才能に見切りをつけ、「安定」を求めて公務員になりました。そして、配属されたのが、生活保護受給者の面倒を見るセクション、生活科です。

主演の吉岡里帆さんは、朝ドラ『あさが来た』でヒロイン・白岡あさ(波留)の学友、「のぶちゃん」こと田村宜を演じてブレークしました。バリバリの「銘柄女優」です。その後は『カルテット』(TBS系)でも、メインの4人にからむ人物を好演していましたね。

今年の1月期、『きみが心に棲みついた』(TBS系)で連ドラ主演を果たしましたが、意気込みが強すぎて、演技がやや空回りしていたように思います。そして2本目の主演が、この『健康で―』です。

今回も、吉岡さんは健闘しているのですが、ドラマのテーマがテーマだけに、内容が非常に生真面目なものになっており、見ていて、つらくなる視聴者も多いのではないでしょうか。また吉岡さんが演じるヒロイン・えみるも、あまりに一本気というか、単純というか、やや奥行に欠ける人物像であることが気になります。

吉岡さんと同じく、「銘柄女優」である徳永えりさんは、このドラマでは、えみるが常連になっている、定食屋「アオヤギ食堂」の店主、青柳円(あおやぎまどか)の役です。

この店のシーンは、ドラマの中で、ふうーっと息が抜ける、ありがたいブロックになっています。言葉は乱暴ですが、人生の裏表を知っている円が、そうさせてくれるのかもしれません。

ここでの徳永さんが、『恋のツキ』のワコとは、まったく別人に見えることに注目です。これからも役柄の幅を広げながら、いずれ「これだ!」という代表作を見せてもらいたいと思います。もちろん、いつか「朝ドラ」女優として、古巣に凱旋することも大歓迎です。

というわけで、「朝ドラ」銘柄女優たちの発表の場であり、プレゼンテーションの場であり、アピールの場にもなっている、今年の夏ドラマ。もうすぐゴールですが、彼女たちの今後を占う、大きな「試金石」であることは、間違いありません。視聴者の皆さんにも、しっかり見届けていただきたいと思う次第です。

サンデー毎日で、さくらももこさんについて解説

2018年09月17日 | メディアでのコメント・論評


〔さようなら、さくらももこさん〕
「ちびまる子ちゃん」世代に衝撃! 

国民的人気漫画『ちびまる子ちゃん』の作者として知られる漫画家のさくらももこさんが8月15日に亡くなった。乳がんを患い長らく闘病中だったというが、53歳での旅立ちはあまりにも早い。広く愛されたちびまる子ちゃんとさくらさんの軌跡―。

さくらももこさんが描いた漫画の世界は、多くの人の心を鷲掴(わしづか)みにした。ゆかりの地、静岡市清水区の同市役所清水庁舎には、多くのファンが献花と記帳に訪れるなど、哀(かな)しみが広がっている。

庁舎のロビーで花を供えた小学校3年生の女子児童は、

「まる子ちゃんは毎週楽しみに見ているのですごくショック。残念でたまらない」

と、悲嘆に暮れた様子。

清水港近くにある「ちびまる子ちゃんランド」の記帳台でさくらさんへの思いと「まる子」の似顔絵を描いていた会社員・吉田早矢香さん(33)はこう語る。

「さくらさんの漫画を見て絵を描き始め、漫画家になりたいとずっと夢を見てきました。さくらさんがいなかったら今の私はいません。みんなを幸せにできる絵を描き続け、さくらさんのように夢を実現できるようになりたいと思います。ゆっくりと休んでいただきたいです」

自伝的作品の「ちびまる子ちゃん」だからこそ、さくらさんの死去で、まる子も死んでしまったかのような思いにとらわれた人も多かったのかもしれない。

自身が子どもの頃をモデルにした「ちびまる子ちゃん」は、家族や友だちと繰り広げるほのぼのとした日常を描いた内容で、まだ昭和だった1986(昭和61)年に連載が始まった。90年にはフジテレビでアニメ化され、広く人気となる。

さくらさんは、「ちびまる子ちゃん」の舞台である旧清水市で、65年に生まれた。作品と同じように、祖父母と両親、姉の6人家族だった。

作品の中に登場する小学校は、さくらさんの母校・清水入江小学校。この学校の教室で、個性的なクラスメートと楽しく過ごした時間が、作品の原点だ。

小学校5、6年生のときの担任だった浜田洋通(ひろみち)さんは、「ちびまる子ちゃん」に登場する「戸川先生」にそっくりだったため、「モデルではないか」とささやかれていた。

浜田さんがこう悼む。

「(モデルかどうかを)確認する前にこういうことになってしまい、残念で辛(つら)く、悔やみきれません。さくらさんは、おっちょこちょいで抜けている部分もありましたが、嫌みがまったくなく、明るいお喋(しゃべ)りな子でした。まるでまる子と同じようでした。その子がこれだけ素晴らしい作品を作った。改めて敬意を表したいですね」

 ◇人間の普遍性が表現された作品

さくらさんは幼少期から漫画家になる夢を抱いていた。だが、なかなかうまく描けない。親からの反対もあったという。

ところが高校時代、作文を教師に「あなたの文章は素晴らしい。現代の清少納言だ」と大絶賛された。それが後押しとなって、だったらその文章を漫画に取り入れてやってみようと、さくらさんは発想を転換。それがやがて「ちびまる子ちゃん」となって花開く。

県立清水西高から静岡英和学院大短期大学部国文学科ヘ進学。84年11月に大和路(奈良)へ3泊4日の研修旅行に出かけた。2日目の夜、友人と2人で漫才を披露したことを、当時の担任だった高橋清隆教授はよく覚えている。

「さくらさんが台本を書いたのですが、それがとても面白いので驚きました。落語家への道も考えたことがあると聞き、納得しました。卒論は江戸時代の滑稽(こっけい)本作者である式亭三馬がテーマ。後のさくらさんのエッセーのように軽妙な文章でありながら、本質を抉(えぐ)っていました。当時から人の心を掴む、読ませる文章でしたね」

さくらさんが書いた、研修旅行の報告記「だから寺なら山がいい。」には、漫才を演じたことも記されている。

〈その夜、班ごとの“芸”があり、私は班の仲間によいしょされ、“まんざい”をやってしまう。高校のとき以来である。あんなこと、あんまりやりたくなかったのだが、ついついやってしまう私はお調子者。チャンチャン〉

明日香村の酒船石を訪ねた記述では、

〈これは人をばかにしている。タダだったから少しは怒りも抑えたが、さんざん疲れる坂を昇り、あげくのはてにあんなわけのわからん石では怒るにきまっとるだろっ〉

漫画家としてデビューしたのは84年、短大在学中である。2年後には少女漫画誌『りぼん』に「ちびまる子ちゃん」の連載を開始。切り口が鋭く、ギャグのセンスも抜群。あっという間に多くの人に受け入れられていった。90年からテレビアニメ化されたが、その年の10月には視聴率39・9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録し、国民的番組と呼ばれるようになる。

それにしても、なぜ「ちびまる子ちゃん」はここまで支持されたのか。まず、この作品は、身の回りの出来事や大人たちを、主人公の独自の視点で描いており、その批評眼の高さに特徴がある。

前出の恩師・高橋教授は、「ごく普通の家庭を舞台に、その温かさやトラブル、クラスメートとの何気ない日常など、どこにでもあることを切り取って描いています。そこには皮肉がありながらも、必ず温かさが込められています。新しい世界観を作り上げた作品といえるでしょう」

と、評価する。

まる子は品行方正なわけではなく、成績優秀でもない。妬んだりひがんだりするなど、素直ではない部分もある。上智大の碓井広義教授(メディア文化論)はこう分析する。

「ある種のズルさや嫉妬心といった毒も持ち、煩悩のような人間のダメな部分を体現しているのがまる子です。一方で、友だちを大事にし、家族が大好き。一面ではなく、人間が持っているウラオモテ両面がエピソードとして盛り込まれる。だからこそ、時代を超え、人間の普遍性がしっかりと表現されています。それが広く受け入れられる要因でしょう」


一方、時代背景に反応する人も少なくなかっただろう。描かれているのは、今から40年ほど前、1970年代の半ば。高度経済成長期が終わり、第1次オイルショックを経て、低成長期に突入した頃の、ごく日常が舞台となっている。現在50歳代の中年世代にとって、「まる子ちゃん」はある意味、自分たちの「三丁目の夕日」だという思いが強い。自分たちの幼少時代が投影されているのだから。

昭和30年代を舞台とする「三丁目」で、団塊の世代がノスタルジーを刺激されたのと同じような感覚である。豊かではなかったが、穏やかな昭和を共有し、同じ土壌が描かれることに共感の声が多かった。

大きな花束を清水庁舎の献花台に供えていた自営業の桂秀樹さん(52)は、残念そうにこう話す。

「同世代の私たちが生きてきた話を日本だけではなく、世界に発信してくれたのがさくらさんです。昭和のいい時代を描いてくれたということで、私にとっては本当に身近な作品なんです。描いてあることすべて身近な感じがします。似たようなキャラクターが実際にいて、シニカルでクスッと笑えるところが非常に秀逸ですよね。永遠に残ってほしい作品です」

 ◇「平成」を象徴するアニメだった

東洋大文学部の藤本典裕教授(教育学)は、同じ国民的アニメの「サザエさん」と比較してこんな考察をする。

「サザエさんの波平さんは一家の当主として正面に座り、サザエさんとフネさんは台所に近くに位置しています。まる子ちゃんでは、両親と祖父母がそれぞれ並んで座り、お母さんが一人で主婦役を担っています。また、お父さんが怖くなく、その職業も描かれていません。時代々々の家族構成、親子関係や性的役割分業、子どもにとっての仕事の意味などの変化を読みとることができます」

60年代を描いた「サザエさん」の時代から変化が読み取れるというのだ。父が権威の象徴ではなくなりつつあることが映し出され、時代を反映しているのである。藤本教授は「労働へのリアリティーが薄らいでいることが表現されている」と分析する。その反面、「まる子ちゃん」では、口やかましい母親が登場するが。

平成2年の90年から「まる子ちゃん」のアニメ放送が始まり、平成最後の夏、さくらさんは逝った。それに先立つ今年5月、アニメのエンディング曲を歌った西城秀樹さんが亡くなった。まる子の姉・さきこは、西城さんの大ファンだった。

平成を代表するアーティスト・安室奈美恵は間もなく引退し、SMAPも既に解散している。ひとつの時代が終焉(しゅうえん)を迎えた。

前出の母校・清水入江小学校では、8月28日に全校児童がさくらさんに黙とうを捧(ささ)げた。1年生のある児童は、

「天国へ行っても、漫画を描き続けてください」

と、作文をしたためたという。

同小の図書室には、95年にさくらさんから寄贈された色紙が飾ってある。そこには「みんな なかよく」と記されている。
そこにさくらさんの思いが凝縮されている。(本誌・青柳雄介)

(サンデー毎日 2018.09.16号)

週刊新潮で、「西郷どん」柏木由紀さんについて解説

2018年09月16日 | メディアでのコメント・論評


“西郷どん”義妹で脱皮
女優・柏木由紀の魅力

小栗旬演じる龍馬の動向も急で、いよいよ佳境を迎えるNHK大河ドラマ「西郷どん」。9月2日の放送では、寺田屋事件の難を逃れた龍馬が妻お龍(りょう)(水川あさみ)を伴い、吉之助(鈴木亮平)の薩摩の家を訪れる様子が描かれていた。

舞台が京へと移り、出番が少なくなった“薩摩パート”であるが、吉之助の妻・糸役の黒木華や妹・琴役の桜庭ななみらが、物語を支える。

そんな“薩摩パート”の女優陣に8月5日より新たに華を添えたのがこの人、AKB48の柏木由紀(27)だ。吉之助の弟・吉二郎(渡部豪太)の妻・園を演じる。鹿児島出身で県のPR役“薩摩大使”も務める柏木に白羽の矢が立ったようだ。

上智大学教授(メディア文化論)の碓井広義氏はいう。

「初めての登場シーンから、インパクトがありましたよ。貧乏な西郷家の嫁ということでスッピン顔のボロ着姿。しかも妊婦で産気づき出産の場面まで。とてもアイドルとは思えない役回り。セリフは棒読みで演技が上手いとはいえませんが、一所懸命さは伝わってきました。これまでも彼女、ドラマに何本か出ていますが、今回はAKBの柏木としてでなく一人の女優として挑戦しているのを感じましたね」


大根は大根でも桜島大根は一味も二味も違う、といったところでしょうか。2日の放送でも、黒木や水川などの女優たちに伍して、赤子を抱いた母親を地味ながら熱演していた。

「NHKとしては、AKBでも人気の柏木さんで視聴率を、との下心があったはず」とは、作家の麻生千晶氏。

「でも人気だけじゃなく、彼女は大勢の集団の中で抜きん出た存在、潜在的な才能を秘めた方なんでしょう。AKBの先輩、前田敦子さんなど最初のドラマの時は酷かったですが、今では第一線で活躍されてます。柏木さんも一皮ずつ剥けて成長していくのを期待しての、抜擢だったんでしょうね」

史実では西南戦争後も健在だった園。歌い踊らなくても、カシワギユキの出番は続く。

(週刊新潮 2018年9月13日号)

ホノルル空港(旧名)で、エスキモーおじさんに遭遇

2018年09月15日 | 遥か南の島 2015~16/18

アラスカ航空





こちらはハワイアン航空

書評した本: 梯久美子 『原民喜 死と愛と孤独の肖像』

2018年09月15日 | 書評した本たち



週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


梯久美子『原民喜 死と愛と孤独の肖像』
岩波新書 929円

梯久美子『原民喜 死と愛と孤独の肖像』は、昭和26年に45歳で自ら生涯を閉じた作家・詩人の本格評伝だ。「私の自我(ママ)像に題する言葉は、/死と愛と孤独/恐らくこの三つの言葉になるだらう」という原の文章をもとにした三部構成となっている。

死の章では4歳の弟、51歳の父、21歳の姉を亡くした原少年と死者たちとの関係を探っていく。また愛の章では生前はもちろん、33歳で亡くなった後も慕い続けた妻・貞恵との結婚生活が軸になる。他者との交流を極端に苦手とした原青年にとって、貞恵はまるで慈母のような存在だった。

そして孤独の章で描かれるのは昭和20年8月6日に広島で体験した原爆と、それを書き残すことに生きる意味を見出した原の姿だ。被災時の自筆ノートと『夏の花』の文章を比較することで、事象の記録に徹しようとした作家の魂が浮かび上がってくる。

しかも大げさであること、曖昧であること、主情的であることを拒否した原に、著者は「生来の繊細さ」「表現者としての理性」「死と死者に対する謙虚さ」を見出していく。あまりにも多くの命を奪った原爆という惨劇について、原は最後まで低い声のまま、静かに語り続けたのだ。

実は、この本の最後に意外なエピソードが収められている。友人だった遠藤周作と一人の女性をめぐる話だ。孤独と思われた晩年にほのかな灯りがともったようで、著者の丁寧かつ真摯な取材に感謝したい。

(週刊新潮 2018.09.06号)

オアフ島 コオリナ

2018年09月14日 | 遥か南の島 2015~16/18






















「透明なゆりかご」 で、難役に挑む清原果那

2018年09月13日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評


NHKドラマ10「透明なゆりかご」
難役に挑む清原果那に注目

NHKドラマ10「透明なゆりかご」の舞台は、由比(瀬戸康史)が院長の産婦人科。そこに看護師見習いとして来たのがアオイ(清原果耶)だ。

産婦人科といえば、最近だと綾野剛主演の「コウノドリ」(TBS系)がある。こちらは「チーム医療」がウリだが、個人病院では無理だ。その代わり、由比は個々の妊婦に可能な限りコミットしていく。いや、そのためにこそ独立したのだ。

妊婦たちはそれぞれの事情を抱えている。受診歴のないまま来院し、出産後に失踪する人。自らの持病のために出産を断念しようとする人。中には出産後の血圧低下で命を落とす妊婦もいる。

このドラマは死産や中絶といった重いテーマも果敢に取り込んでおり、14歳の中学生が妊娠し、出産するという回もあった。その判断に至るまでの本人と家族をきちんと描き、さらに出産から9年後の母子も見せていた。

好感がもてるのは、どのエピソードでも、わかりやすい結論を下していないことだ。理想や倫理だけでは白黒つけられない、グレーの部分で悩んだり、傷ついたりする妊婦や家族を見つめていくのがアオイである。

16歳の清原はドラマ初主演ながら、アオイが憑依したかのような熱演を続けている。自身もADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断された過去をもつヒロイン。そんな難役に挑戦する清原の姿だけでも見て損はない。

(日刊ゲンダイ 2018年9月12日)