碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

社会性と共感性の朝ドラ

2024年05月16日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評

 

 

社会性と共感性の朝ドラ

 

NHK連続テレビ小説(朝ドラ)の主人公には二つのタイプがある。一つは架空の人物。もう一つが実在の人物をモデルにしたものだ。

最近は後者が続いている。「らんまん」は植物学者の牧野富太郎。「ブギウギ」は歌手の笠置シヅ子。そして放送中の「虎に翼」は三淵嘉子がモデルだ。

大正3年生まれの嘉子は、昭和13年に現在の「司法試験」に合格。日本初の女性弁護士・判事であり、司法界の「ガラスの天井」を次々と打ち破ってきた女性だ。その軌跡は戦前・戦後を貫く、試練の女性史でもある。

実は放送開始前、朝ドラのヒロインとしては堅苦しくないかと懸念していたが、杞憂だった。

第一の功績は主人公・猪爪寅子を演じる伊藤沙莉だ。世間の常識が、まだ「女性の幸せは結婚にあり」だった時代。自己主張する女性が疎まれた時代に、寅子は自然体で自分の道を切り拓く。

納得がいかない事態や言動に接したときに、寅子が発する「はて?」という疑問の声は、彼女の生き方の象徴だ。芯は強いが、どこか大らかな寅子のキャラクターを伊藤が全身で表現している。

次に、この作品が朝ドラでは珍しい「強い群像劇」であることだ。寅子と共に学ぶ女性たちの人物像をきちんと造形してきた。

華族の令嬢である桜川涼子(桜井ユキ)。弁護士の夫がいる大庭梅子(平岩紙)。朝鮮半島からの留学生、崔香淑(ハ・ヨンス)。そして、いつも何かに怒っている勤労学生の山田よね(土居志央梨)だ。単なる周囲の人ではない彼女たちの存在が、物語に広がりと奥行きを与えた。

しかし、最終的に弁護士の資格を得たのは寅子だけだった。大学が主催した祝賀会。新聞記者たちの前で、寅子は抑えてきた思いを口にする。

「生い立ちや信念や格好で切り捨てられたりしない、男か女かでふるいにかけられない社会になることを、私は心から願います……いや、みんなでしませんか? しましょうよ!」と呼びかけたのだ。

主人公個人が際立っていた「らんまん」や「ブギウギ」とは異なり、見る側を引き込むような社会性と共感性がこのドラマにはある。物語は中盤に差し掛かってきた。弁護士として歩み始めた寅子からも目が離せない。

(しんぶん赤旗「波動」2024.05.16)

 

 


【気まぐれ写真館】 「座間」の空

2024年05月16日 | 気まぐれ写真館

2024.05.15

 


土曜ドラマ「パーセント」 NHK大阪が手掛ける野心作

2024年05月15日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

 

土曜ドラマ「パーセント」NHK

NHK大阪が手掛ける野心作

 

土曜ドラマ「パーセント」(NHK)の舞台は、ローカルテレビ局の「Pテレ」。主人公はバラエティ班で働く吉澤未来(伊藤万理華)だ。

ある日、提案していた学園ドラマの企画が採用される。念願のドラマ班に異動し、自分の企画を実現できると喜ぶ未来。

しかし、編成部長は条件を付ける。それはドラマの主人公を障害者の設定にすること。局が進めるキャンペーン「多様性月間」の一環だった。

やがて未来は、劇団に所属する車椅子の女子高生・ハル(和合由衣)と出会う。

障害の当事者である彼女に障害者の役を演じてもらおうとするが、「障害にめげずとか、乗り越えてとか、好きじゃない」と拒否される。

「障害者が何かしら壁を感じる時、社会のほうに問題がある。それは障害者が乗り越えることじゃない」と言い切った。

このドラマは、単なる「お仕事ドラマ」でも「障害者ドラマ」でもない。

管理職の30%に女性を登用する「クオータ制」や、従業員に占める障害者の割合を定めた「障害者雇用促進法」の意義は大きい。

だが、数値の設定だけでは解決しない問題があることを、物語に取り込もうとする野心作だ。

脚本は劇作家で演出家の大池容子によるオリジナル。制作統括は「カムカムエヴリバディ」などの安達もじり。

「バリバラ」を制作している、NHK大阪が手掛けるドラマであることも注目だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.05.14)

 


言葉の備忘録366 自分の・・・

2024年05月14日 | 言葉の備忘録

ひげを剃った宮崎駿監督(番組より)

 

 

 

自分のやってきたことの中にしか

自分はいない。

 

 

NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」特別編

『宮崎駿と青サギと… ~「君たちはどう生きるか」への道~』

 

 

 


【新刊書評2024】 『生と死を分ける翻訳』

2024年05月13日 | 書評した本たち

 

 

「静岡新聞」「熊本日日新聞」「沖縄タイムス」などに掲載された書評です。

 

 

選択一つで歴史を傾ける

アンナ・アスラニアン著、小川浩一訳著

『生と死を分ける翻訳』

草思社 2750円

 

多くの人が、日々当たり前のように翻訳と接している。よほど語学が堪能でない限り、海外文学を日本語訳で読み、洋画を字幕付きで見るのは普通のことだ。

本書は翻訳と通訳の文化史である。読み進めるうちに、翻訳が、ある国の言葉や文章を単純に他の国のそれに変換するだけではないこと。

また通訳とは、異なる言語を話す人たちの間に入り、言葉を訳して話を通じさせるだけではないこともわかってくる。

例えば1962年にキューバでのソ連ミサイル基地建設をめぐって米ソが対立した、いわゆる「キューバ危機」。

米国は「海上封鎖」という対抗策をソ連に通告する。だが、その電文では「blockade(封鎖)」ではなく、「quarantine(隔離、検疫)」という語が使われた。

もし「封鎖」を使用していたら、ソ連側は独ソ戦におけるレニングラード包囲戦を想起し、緊張は一層高まったはずだ、という。

またフルシチョフは一連のやりとりの中で、「貴国が攻撃的とみなす兵器の解体」を約束すると書き送った。この「攻撃兵器」の定義を米国に突かれ、最終的にソ連はミサイルだけでなく爆撃機も撤退せざるをえなくなる。

「世界が深刻な危機に瀕した状況においては、翻訳(通訳)という行為そのものが激しい文化衝突として歴史の表舞台に立ち現れる。そこでは、訳語の選択一つで歴史の天秤が傾いてしまう」と著者は述べている。

さらに、文芸の翻訳についても興味深い考察が並ぶ。ペルシャのオマル・ハイヤーム作とされる詩集「ルバイヤート」の英語訳者は、エドワード・フィッツジェラルドだ。

世界中で読まれてきたが、その翻訳は原文にはないペルシャの事物に満ちている。ある四行詩では原文と共通するのは一語だけ。原作を「自分のもの」と呼びたくなるほど、ほれ込んだからだ。

翻訳者の役割に関して長く議論の的だった、「翻訳者の主体性」という問題は今も生きている。

(碓井広義・メディア文化評論家)

/ANNA・ASLANYAN ジャーナリスト、翻訳家。英紙ガーディアンや「タイムズ文芸付録」などに書籍やアート関連の記事を寄稿

 


【気まぐれ写真館】 散歩で見かけた「チェリーセージ」

2024年05月12日 | 気まぐれ写真館

 


5月12日(日)『談談のりさん+(プラス)』に出演

2024年05月11日 | テレビ・ラジオ・メディア

 

 

UHB 北海道文化放送

『談談のりさん+(プラス)』

2024年5月12日(日)

ごぜん6時15分~

 

放送終了後、

下記の番組サイトで

「ノーカット完全版」を視聴できます。

 

談談のりさん+(プラス) | 番組情報 | UHB 北海道文化放送

 

 


【気まぐれ写真館】 コンボルブルス「ブルーコンパクタ」

2024年05月11日 | 気まぐれ写真館

 


【気まぐれ写真館】 5月9日の「神楽坂」

2024年05月10日 | 気まぐれ写真館

 

 


【気まぐれ写真館】 5月9日の「多摩川」

2024年05月10日 | 気まぐれ写真館

 

 

 


言葉の備忘録365 本質的な・・・

2024年05月09日 | 言葉の備忘録

芹沢銈介の巾着(大原美術館)

 

 

 

 

本質的なこと以外のことは

少しぐらいどっちでもかまわぬ・・・

怠け者は本質的なものにのみ感応する。

本質的な追及であればこそ面白く楽しい。

 

 

富士正晴『不参加ぐらし』

 

 

 

 


石原さとみ主演「Destiny」後半戦も期待できそうだ

2024年05月08日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

石原さとみ主演「Destiny」

後半戦も期待できそうだ

 

5月7日、石原さとみ主演「Destiny」(テレビ朝日系)が前半戦の第1部を終える。

横浜地検中央支部の検事・西村奏(石原)は、胸の奥に2つの重荷を抱えて生きてきた。

1つは大学時代の友人・カオリ(田中みな実)が、運転していたクルマを大破させて死亡したこと。2つ目が15歳の時に起きた、東京地検特捜部の検事だった父・英介(佐々木蔵之介)の自殺だ。

カオリの死をめぐっては、当時奏の恋人だった真樹(亀梨和也)がクルマに同乗しており、その後、消息不明となっていた。ところが真樹が突然現れ、奏は12年前に何があったのかを知る。

しかも真樹の父で弁護士の野木(仲村トオル)が、奏の父の死に関与していたことも浮上してきた。

奏が独白する。「罪を犯すか、犯さないか、紙一重なんだよね。人なんて分からない」

奏は検事という立場を生かしながら、父の死の真相を探り始めた。さらに真樹との再会で、婚約者である医師の奥田(安藤政信)との関係も微妙なものとなりそうだ。

サスペンスとラブストーリーの融合を目指した吉田紀子の脚本は、その構成力で見る側を引き込んでいく。

また3年ぶりの連続ドラマ復帰となる石原。過去と現在が交錯する展開の中で、抑制の利いた演技で感情の揺れを表現するなど、成熟度が増している。後半戦も期待できそうだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.05.07)


第61回「ギャラクシー賞」入賞作品、NHKスペシャル「未解決事件File.10 下山事件」とは?

2024年05月07日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

第61回「ギャラクシー賞」入賞作品、

NHKスペシャル

「未解決事件File.10 下山事件」とは?

 

先日、第61回ギャラクシー賞の「入賞」作品を、主催の放送批評懇談会が公表しました。

テレビ部門の入賞作品には、計14本のドラマやドキュメンタリーが並んでいます。

その中から1本の「大賞」が選ばれ、5月31日に行われる贈賞式で発表される予定です。

今年3月に放送されたNHKスペシャル「未解決事件File.10 下山事件」は、大賞の有力候補と思われる1本です。

日本がまだ占領下にあった1947年7月。行方が分からなくなっていた国鉄の下山定則総裁が、列車に轢かれた死体となって発見されます。

その後、犯人はもちろん、自殺か他殺かも特定されないまま捜査は打ち切られ、迷宮入りとなりました。いわゆる「下山事件」です。

〈戦後最大のミステリー〉に挑む

NHKスペシャルの「未解決事件」シリーズは、これまでに「グリコ・森永事件」や「地下鉄サリン事件」などを扱ってきました。

前回は「松本清張と帝銀事件」であり、最新作が〈戦後最大のミステリー〉と呼ばれてきた下山事件です。

この事件に関しては、松本清張「日本の黒い霧」をはじめ、近年の柴田哲孝「下山事件 最後の証言」や森達也「下山事件」などで様々な考察が行われてきました。

現時点で、番組としての新たな視点や知られざる事実を提示できるのか。そこが注目ポイントでした。

下山事件を担当した主任検事の名は布施健。

後に検事総長として「ロッキード事件」の捜査を指揮し、田中角栄元首相を逮捕したことで知られる人物です。

制作陣は、布施たちが残した700ページにおよぶ膨大な極秘資料を入手。これを4年かけて分析し、取材を進めてきたのです。

浮上してきたのは、ソ連のスパイを名乗り、下山暗殺への関与を告白した「李中煥」(り・ちゅうかん)という人物の存在。

やがて、李がGHQの秘密情報組織「キャノン機関」の密命を受けていた可能性が明らになっていきます。

検察をも翻弄した彼は、いわゆる「二重スパイ」だったのです。

さらに制作陣は、キャノン機関に所属していた人物をアメリカで発見します。李の写真を見せると、面識があったと証言しました。

またGHQの下部機関であるCIC(対敵情報部隊)にいた人物の遺族とも面談。本人が「あれは米軍の力による殺人だ」と語っていたことを聞き出します。

米ソ対立が深まる中、米国は有事の際に国鉄を軍事輸送に使うことを計画していました。下山亡き後の朝鮮戦争では、それが実施されます。

事件は、米国の「反共工作」の中で起きていたのです。

番組は、森山未來さんが布施検事を演じたドラマ編と、ドキュメンタリー編の二部構成。

両者は互いに補完し合いながら、現在の日本社会に繋がる「戦後の闇」に光を当てて見事でした。

 


『虎に翼』初回で、「日本国憲法」が描かれていた意味とは?

2024年05月06日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

『虎に翼』初回で、

「日本国憲法」が描かれていた意味とは?

 

NHKの連続テレビ小説『虎に翼』。

第5週は、昭和11(1936)年の1月から10月にかけて行われた「共亜事件」の公判を軸に、物語が展開されました。

最終的に、猪爪寅子(伊藤沙莉)の父・直言(岡部たかし)を含む、16人の被告人全員が無罪。

寅子にとっては、父を心配すると同時に、「法律とは何なのか」を考え続けた日々でした。

この第5週が幕を閉じた5月3日は「憲法記念日」です。

「日本国憲法」は昭和21(1946)年11月3日に公布され、翌22(1947)年の5月3日に施行されました。

4月1日に放送された、このドラマの初回。その冒頭を思い起こします。

『虎に翼』と「日本国憲法」

画面には、川面(かわも)が映し出されました。水の流れに乗っているのは、小さな笹舟です。

川岸の流木に腰を下ろしている、一人の女性。寅子でした。

モンペ姿の寅子は、手にした新聞を見つめています。その紙面にあるのは、公布された「日本国憲法」の文字。

そして、「第14条」の文章を読む寅子の肩が、微かに震えます。泣いているのでした。

尾野真千子さんによる「語り」の声が、初めて視聴者の耳に聞こえてきます。

「昭和21年に公布された憲法の第14条にこうあります……」

画面は、寅子の父・直言が作っていたスクラップブック。

「初の女弁護士誕生へ・猪爪寅子さん」という、新聞記事の見出しが見えます。

さらに映像は敗戦後の東京の点描となり、語り手は第14条を朗読していきます。

「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」

歩いて行くのは、ツイードのスーツ姿となった寅子です。

向かった先は、当時司法省の各課が間借りしていた、法曹会館。

再会するのが、後に最高裁長官となる桂場等一郎(松山ケンイチ)でした。

初回は、そこから昭和6年へとさかのぼって寅子のお見合いシーンとなり、昭和11年の「現在」に至る、というわけです。

このドラマが、日本国憲法と様々な「差別禁止」が明記された第14条から始まったこと。

そこに脚本の吉田恵里香さんをはじめ、制作陣の強い意思を感じます。

また第14条の前に置かれた、「個人の尊重・幸福追求権」を示す第13条。

さらに「家庭生活における個人の尊厳と両性の平等」という第24条。

こうした憲法の精神が『虎に翼』という物語を支えており、今後ますます重要な要素となっていくはずです。

 


祝!「こどもの日」

2024年05月05日 | 日々雑感

柏原晃夫(かっしー)『しましまぐるぐる』