川本ちょっとメモ

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<歴史と病気・伝染病 7> 「伝染病」と「感染症」について

2020-05-10 23:20:11 | Weblog

 (注) 「伝染病」と「感染症」
  1999年(平成11年)まで上掲書出版当時も、明治以来の「伝染病」ということばが使われていました。1999年(平成11年)、感染症法が新しく施行されると同時に、1897年(明治30)以来の伝染病予防法が廃止されて、それ以後替わって「感染症」ということばが使われるようになりました。
 


『緑の世界史』は上巻360ページ、下巻279ページ、計659ページです。人類の生存、増殖は地球生態系の克服の歴史であり、地球環境破壊の歴史であり、人工物である廃棄物問題や環境汚染、気候変動など、今や地球環境の側から深刻な制約に直面しているという観点から、壮大な人類史概説を書いています。

いまだ「開発オンリー」の人類がこのままで、いつまで地球生態系の王者であり続けることができるのでしょうか。

今回紹介している人類史と病気の俯瞰に触れているのは、『緑の世界史』全659ページのうち、24ページ分です。これを読んで、人が生きていく生活の中で自ら招いた伝染病があることを知りました。

伝染病について思い出が一つあります。私の弟が幼いころ赤痢にかかりました。兄弟ともに小学校に上がる前のことで、人がたくさんやってきて、私も住まいも消毒された記憶がうっすらと残っています。そういえば最近は、伝染病と言うことばを聞いたことがありません。

新型コロナウイルスCovid-19が流行する今、わたしたちは「感染症」ということばを見聞きし使っています。

私は日常感覚で、感染症というのはインフルエンザと理解していました。コロナもインフルエンザの類であって、インフルエンザはインフルエンザ、伝染病は伝染病、といった感覚でいました。

伝染病と感染症。この違いについて気になりましたので、今回は『緑の世界史』の記述と離れて、調べた結果を書きとどめます。


 『緑の世界史・下』 3ページ~20ページの記述にある伝染病名

 トリパノゾーマ症(睡眠病)、オンコセルカ症(河川盲目症)
 天然痘、 ハシカ、 結核、 ジフテリア、 インフルエンザ、
 普通の風邪、 ハンセン病、 コレラ、 赤痢、 マラリア、
 おたふく風邪、 住血吸虫症、 デング熱、 ペスト(黒死病)、
 肺ペスト、 腺ペスト、 チフス、 黄熱病、 梅毒、 発疹チフス、
 腸チフス、 エイズ


『緑の世界史』はイギリスで出版され、日本語訳の本書出版は1994年6月25日です。日本語訳出版当時の日本では、伝染病予防法(1999年廃止)がありました。旧伝染病予防法で指定されていた病名は次の通りです。


「伝染病予防法」で指定された伝染病

法定伝染病 11種類 
 コレラ、 赤痢、 腸チフス、 パラチフス、  痘瘡(天然痘)、
 発疹チフス、  猩紅熱、 ジフテリア、 流行性脳脊髄膜炎
 ペスト、 日本脳炎
 *診断した医師はすぐに保健所に届け出て、感染者は隔離病棟に収容された。

 ●指定伝染病 3種類
 急性白髄炎、 ラッサ熱、 腸管出血性大腸菌感染症
 *診断した医師はすぐに保健所に届け出て、感染者は隔離病棟に収容された。

 ●届出伝染病 13種類
 インフルエンザ、 狂犬病、 炭疽、 伝染性下痢症、 百日咳、
 破傷風、 マラリア、 ツツガムシ病、 バンクロフト糸状虫症、
 麻疹、 回帰熱、 黄熱、 急性灰白髄炎(ポリオ)
 *診断した医師は24時間以内に保健所に届け出る。感染者は自宅療養または普通病棟
  に収容。


●ほかの法律で届出が義務付けられている伝染病
 結核、梅毒、淋病、軟性下疳(げかん)、鼠径(そけい)リンパ肉芽腫、
 日本住血吸虫病,トラコーマ,食中毒,エイズ 



「伝染病」 → 「感染症」へ
1999年4月1日から新法「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(←クリック) が施行されました。この法律がどんなものか、クリックして一見してください。これにより、従来の伝染病予防法、性病予防法、後天性免疫不全症候群の予防に関する法律(エイズ予防法)が廃止になりました。

この感染症新法の施行されて、「伝染病」という呼称が公には使われなくなりました。しかし、『緑の世界史』の日本語訳の初刊は1994年6月25日で、「感染症新法」施行の5年前になりますし、イギリスでの初刊は当然それよりもっと前ということになります。

それゆえ『緑の世界史』執筆当時も、日本語訳初刊当時も、医療関係筋、医療行政筋、世間の人々はなおさら、昔から使ってきた「伝染病」ということばを使っていました。

こうして、私も伝染病と感染症の使い分けがやっとわかってきましたが、調べているうちにおもしろい発見をしました。

余談になりますが、書き留めておこうと思います。

伝染病予防法の条文を確認したくて、政府の「e-Gov法令検索」で「伝染病予防法」を検索しましたが、出てきません。廃止された法律はe-Gov法令検索から削除されているのでしょう。

それで検索語を「伝染病」にして網を広げて検索してみました。すると、「家畜伝染病予防法」と「伝染病患者鉄道乗車規程 」がひっかかりました。いま公に伝染病と言うことばを使っているのは動物関係者で、人間の関係では公には感染症ということばを使っています。


伝染病患者鉄道乗車規程
「伝染病患者鉄道乗車規程」(←クリック)には「明治三十三年逓信省令第三十八号」という省令番号がついています。 それほど古くからある省令なんですね。総務省が、逓信省の現在の後身です。

本規程第9条には、本規程ハ鉄道営業法施行ノ日ヨリ之ヲ施行ス、とあります。そして、鉄道営業法を参照すると、明治三十三年法律第六十五号、とあります。

この二つの法規は、明治33年に同時に制定されたものと見えます。

伝染病患者鉄道乗車規程の附則(平成一一年三月三〇日運輸省令第一五号)に、この省令は、平成十一年四月一日から施行する、とあります。運輸省の後身は国土交通省で、平成11年は西暦1999年です。

新法「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が1999年に施行され、それと同時に伝染病予防法は発展的に解消されて、廃止法になりました。

その時点で、「伝染病」患者鉄道乗車規程の名称は「感染症」患者鉄道乗車規程に変更されるのが普通です。なにしろ、それまでの法律上の伝染病患者が法律上の感染症患者に衣替えしたのです。法律上、伝染病患者は存在していません。

年次で言えば平成11年に文言が「感染症患者」に変更されていなければいけないのに、修正漏れのまま今に至ったのか、と一旦は思いました。運輸省(当時)のおもしろいミスを発見したと思いました。

一方、よく考えてみると、「伝染病患者鉄道乗車規程の附則」が、これとまったく同じ、同年月同日付で、この省令を施行するとしています。伝染病予防法廃止・感染症新法施行とぴたり歩調を合わせた日付で省令を施行する付則を加えていながら、伝染病患者 → 感染症患者への文言修正を忘れることなど考えられません。

今、法律上の伝染病患者は存在しません。「伝染病患者鉄道乗車規程」が対象にしている人間は法律上存在しません。合理的に言えば、この規定は廃止されなければなりません。もっとも、放置しておいてもこの規定が誰かに何か害を及ぼすようなこともなさそうです。

 明治三十三年逓信省令第三十八号
 伝染病患者鉄道乗車規程


 伝染病患者鉄道乗車規程左ノ通定ム

 第一条 伝染病患者ヲ乗車セシメムトスルトキハ予メ之カ申込ヲ為シ鉄道
    ノ承諾ヲ受クルコトヲ要ス

 第二条 前条ノ申込ヲ受ケタルトキハ鉄道ハ列車ヲ指定シ其ノ他運送上旅
    客及公衆ノ安全ヲ保スルニ必要ナル事項ヲ指定スルコトヲ得

 第三条 伝染病患者ニハ少クトモ一人ノ附添人ヲ附スルコトヲ要ス

 〇 2 鉄道ノ請求アルトキハ前項附添人ノ外医師ヲ附スルコトヲ要ス

 第四条 伝染病患者ハ貸切車ヲ以テ運送シ普通旅客ト其ノ車輛ヲ区別シ当
    該掛員ノ外一切之カ交通ヲ遮断スヘシ

 第五条 伝染病患者ヲ搭載セル車輛ハ其ノ入口ニ「伝染病者」ノ四字ヲ
    掲示スヘシ

 第六条 伝染病患者車中ニ於テ死亡シタルトキハ警察官又ハ其ノ他ノ当該
    吏員ニ 之ヲ申報スヘシ

 第七条 乗車中伝染病ニ罹リタルモノアルトキハ速ニ警察官又ハ其ノ他ノ
    当該吏員ニ之ヲ申報スヘシ

 第八条 車輛、器具ノ消毒其ノ他伝染病予防ニ関スル取締ハ一般法令ノ規
    定ニ依ル

   附 則
 第九条 本規程ハ鉄道営業法施行ノ日ヨリ之ヲ施行ス

   附 則 (平成一一年三月三〇日運輸省令第一五号)
  この省令は、平成十一年四月一日から施行する。



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