遊びをせんとや

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ごんたくれ 西條奈加 ~京の日本画壇、応挙から蘆雪、呉春、蕭白~

2023-02-12 08:26:06 | ブックリスト
香住の大乗寺に行って長沢蘆雪の猿の絵にいたく感心したので蘆雪をモデルにした小説を読んでみたいと思った。

ネットで調べてみると蘆雪自身が波乱万丈の人生で完全にADHD気質。
46歳で大阪で毒殺されたとも、自殺したとも言われている。

ありました。うってつけの本が。
西條奈加さんの「ごんたくれ」
しかもその時代の応挙一門と曽我蕭白をモデルとした人物も登場。

蘆雪をモデルとした画家と蕭白をモデルとして画家の人生の物語だ。
当然、大乗寺の襖絵を描いた頃が中心となる。わくわく。

図書館で検索するとすぐに文庫版を借りることができた。便利。



三分の一くらい読んで返却期日が迫っている本があったのでそれを挟んで一息に読んだ。
江戸時代の安永から天明にかけて18世紀の後半の京都日本画壇が舞台だ。
日本美術史で学んだ、円山派とは円山応挙のことであり、四条派とはのちに呉春が中心になって起こったということも解る。
なるほどーと思った。この時代、江戸より京都が日本絵画の中心なんだ。

西條さんの本は人物描写が深く、引き込まれた。
文庫版のあとがきに細谷正充さんがお書きになっている通りにそれぞれの作品描写がまた上手く、的確な言葉で表現されているので
私が観たことない作品は「どんな作品なんだろう。」と興味が湧く。

蘆雪を吉村胡雪、蕭白を深山曾白として架空の人物に仕立てているが、史実に残っているこのモデルとなった実在の人物のエピソードが「ほんまかいな。」というぐらいに突飛だったから面白い。この二人が同時期に活躍したので接点があったという証拠はないが、ありえたような話になっている。

与謝蕪村の弟子、呉春もしかり。
応挙の懐の深い人物像もしかり。

思えばその人となりは作品に十分表出している。

作中に出てくる蕭白が津の久居藩の藩主に依頼されて描いた、金箔屏風に一筆の「黒虹」の作品が観たい。
残念ながら今は所在不明となっている。空極のアヴァンギャルド、アブストラクトペインティングだ。
家老の顔に墨まで塗って仕上げたそうだ。

蘆雪の和歌山串本、無量寺にある龍、虎図

どっかで観てるんだろうな。

大乗寺の「松に孔雀図」が一旦完成していたのに京都の天明の大火で焼けたことも作中に語られている。
大変だったんだなと思う。その頃は天明の飢饉も起こっていたし、、、。
ただ、大阪や京都より江戸に大火が断然多かったというのもこの大火が原因になって西陣が衰退していったことも知った。なるほど。


蘆雪が突き抜けた後に描いた「白象黒牛図屏風」

 
 
これはエツコ&ジョープライスコレクション

1968年に辻惟雄さんが「美術手帖」に書いた「奇想の系譜」の中に蕭白が取り上げられて明治以降忘れられていた蕭白が一躍脚光を浴びる。

私も今まで蕭白の絵を観たのは覚えているが、蘆雪の絵を意識して観たことがなかったではないかと思った。
応挙や蕭白に紛れて観てきたような気がする。

作中では、蘆雪晩年の作品の落款の右端の枠が切れていることの理由も語られている。
もちろんフィクションですが。

練れた京ことばや大阪弁が出てきて耳に心地よくと思われるくらいに登場人物のしゃべる声が聞こえるような作品でした。