■■【経営コンサルタントのお勧め図書】412 日本人はなぜ国際人になれないのか
「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
■ 今日のおすすめ
『日本人はなぜ国際人になれないのか』(著者:榊原 英資 東洋経済新報社)
■ 日本人、日本文化の強みと弱み(はじめに)
私達コンサルタントは、状況を把握するのに、SWOT分析ということを頭に浮かべます。SWOTとは、S(強み)、W(弱み)、O(機会)、T(脅威)の4つの視点で対象となる課題を捉える手法です。
この紹介本は「日本人の国際化」について、強みは「日本人、日本文化のユニーク性」を上げています。弱みとして「折角持っている日本人、日本文化のユニーク性を発信する力の弱さ」を上げています。機会としては、「日本人、日本文化のユニーク性を発信できたら、海外現地工場の運営、外国人観光客の増加等様々なグローバル化の局面で良い効果(ユニーク性のグローバル化)を生むことが出来る」としています。脅威としては「日本人、日本の文化のユニークさ故に生まれた、日本の社会保障制度・規制などの機能不全」を上げています。
私は、著者の考えは一つの考え方と思います。しかし、それだけかなと考えさせられます。私は、弱みとして次の二つを加えるべきと思います。
一つは日本人の宗教IQの世界的に見た低さです。江戸時代の「寺請制度」が日本人のDNAに、宗教に対する無関心あるいは嫌悪感を植えつけてしまった事です。この事が、宗教IQの高い外国人とのコミュニュケーションに著しい障壁を作ってしまっています。また、外国人の持っている価値観に対する理解力を低いものにしています。このことはグローバリゼーション(商品・サービス力や海外進出における現地化、外国人の受け入れ)において、マイナスとなっているのではないでしょうか。
最近「ダイヤモンド」誌で、「宗教」特集号(11月15日号)が出ました。日本人も漸く自らの課題に気付き始めたかなと感じました。その一部をここにご紹介します。『欧米人は・・・相手の宗教も自分の信じる宗教もはっきりしていない日本人とは根本的に異なる。偏見はない代わりに、相手を理解する術をもっていない日本人は、見た目は大人でも、小学生レベルの会話しかできない。国際社会ではそう見られている。』
二つ目は、ルース・ベネディクトの「菊と刀」や土井健郎の「『甘え』の構造」が指摘する日本人的思考、つまり、「集団主義」的思考、「自分がない」的思考が、世界における日本人の好感度にはプラスになっても、「不確実性」の時代におけるグローバリゼーションの障害となっているのではと思うのです。
■ 他国と比較した日本文化のユニークさ
【日本とイギリス】
著者は、日本とイギリスの共通点と決定的な違いを挙げながら、「国際化」という点で、強いイギリスと弱い日本という結論を導いています。
共通点は、温暖な気候、豊な自然、綿工業の発展を基盤とした経済発展、外国の攻撃を受けにくい地理的条件(島国)などを挙げています。
決定的な違いは、同じ島国でありながら、イギリスは大陸から渡りやすい地理的条件であったことに対し、日本は、日本海の荒波に隔てられた大陸から渡りにくい地理的条件であったとします。この結果イギリスはヨーロッパ大陸の諸民族の征服の対象になり、まさに戦争国家になってしまったというのです。このあたりの記述は、ヨーロッパの歴史を振り返るには面白いと思います。一方、日本は日本海の荒波と台風の お陰で大陸からの侵略を受けることなく平和な国家を築く事ができたといいます。
この決定的な違いにより、イギリスは軍備を拡張し、海上制覇を果たし、世界に植民地を作り、海洋帝国として発展します。一方日本はというと、基本的に「和」の環境の中で、ユニークな日本人と日本文化を築き上げてきたと言います。結果として、「国際人」の観点から見ると、強いイギリス人、弱い日本人を創り上げたというのです。
【日本とインド】
著者が、日本の好対照として挙げているのがインドです。単一性の日本に対し、多様性の“るつぼ”であるインド。宗教、民族、言語、どれをとっても対照的だというのです。このあたりの記述も面白いです。世界の交易の中心として、他国から狙われ、征服されてきたインドに対し、アジアの端っこに位置し、朝鮮半島経由の中国の影響以外、近世まで海外からの影響を殆ど受けなかった日本。ここにもユニークな日本人、日本文化が築かれたバックグラウンドがあったと指摘します。
【日本人、日本文化のユニークさを認識した上で】
このユニークさを強みとしてどう生かしていくのか、一方弱みと認識し、どう克服していくのか、それが課題ではないかと私は思うのです.
■ これからの日本の課題はグローバリゼーション(むすび)
今、日本は人口問題という大きな問題を抱えています。それは、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、生産年齢人口(15~64歳)が、2010年は8,173万人でしたが、50年後の2060年には4,418万人と45%減少し、老年人口(65歳以上)は、2010年の2,948万人から2030年には3,685万人、そして2060年には3,464万人と横這いが続くとしていることです。この人口問題を解決するキー・ワードは、グローバリゼーションです。
海外企業の日本への進出受け入れ、外国人労働者の受け入れ、外国人観光客の受け入れ、海外マーケットにおける商品・サービスの競争力の強化、いずれをとってもグローバリゼーションが課題となります。著者の言う「英語の公用語化」もその一つでしょう。それだけでは解決できません。
著者の言う、日本人、日本文化のユニークさは大切な強みですが、それを維持しつつグローバリゼーションに向けて、日本人が良い意味で変っていく、つまり、発信能力・受容能力を強める為にどうしたら良いかを真剣に考える時に来ているのではないでしょうか。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm
【 注 】
著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
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