モラルが向上する「道徳ピル」

飲むと他人への信頼感が増す、服用すれば共感力が向上する、使うと認知能力が改善するというような、人間のモラルを向上させる「道徳ピル」が存在するようです。

実験レベルでは効果が実証され、すでに一部ではひそかに使っている人もおり、海外には誰もがこうした薬を服用することを義務化せよという主張もあるといわれています。

他者への思いやりや配慮、協調的な関係の構築と維持は、人間が生活を支えるうえで不可欠の要素です。私たちは誰もが健全な社会を築く資質を備えているものの、それがいつも十分に発揮されるとは限りません。事実民族紛争や宗教対立、飢餓、内戦、性差別等様々な問題が山積みされています。

こうした現状に対して「道徳ピル」と呼ばれる薬を用いて、人間の潜在的な人種的偏見や攻撃衝動、リスク回避の傾向性などを抑制し、協調性や共感を増進させることで社会的な課題に対処すべきだと主張する人がいます。

この道徳ピルはＳＦ小説の中の出来事ではなく、いくつかの実験によって効果が確認されています。

例えばゲーテ大学の研究グループは、2005年に神経ペプチドであるオキシトシンは、闘争欲や恐怖心を沈め、他者との親和的で強力的な行動を促進する作用があるという研究結果を報告しています。

この実験はスイスのチューリッヒで、健康な男子学生58人を対象に行われました。半数の29名が資産を持つ資産家に、残りが資産を運用する信託者に分け、投資家は二つのグループに分けられ、一方のグループには本物のオキシトシンを、他方は偽物をそれぞれ鼻から吸引させました。

その結果、オキシトシンを吸引したグループだけが、何と全額に近い資産を信託者にゆだねました。このことからオキシトシンは不安を抑制し、他者への愛着や信頼感を増加させる効果があると結論されました。

抗うつ剤として知られる選択的セロトニン阻害薬も不安や恐怖感を抑える作用があることから、オキシトシンと同様に親和的で協力的な行動を促進したり、攻撃的な衝動を抑制すると考えられています。

さらに2012年には、プリマス大学の研究グループが、高血圧の治療薬であるβ－ブロッカーは、人種差別的な反応を減少させる効果があるという研究結果を報告しています。この実験内容は省略しますが、このようにいくつかの薬剤には「道徳ピル」と呼ばれ得る効果が実際に確かめられています。

一方薬剤の影響で偏向的になったり、必要な感情的反応全般が鈍くなるなどの副作用が確認されています。この道徳ピルがすぐに世界中に普及するわけではありませんが、その実用化は進んでいるようです。

しかし私はこういった感情を薬でコントロールするというは、基本的に間違っている気もしています。