ごっとさんのブログ

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行動を操る?寄生虫

2018-08-14 10:20:55 | 自然
トキソプラズマという寄生虫は、寄生した哺乳類の行動を変化させる可能性が指摘され、人獣共通感染症として人間にも寄生しますが、その影響がどの程度なのか研究が進められています。

寄生虫の中には、発生と幼生、成体という成長段階で異なった種類の宿主の間を渡り歩くものもいます。この過程を生活環といい、幼生時の宿主を中間宿主、成体時の宿主を終宿主と呼んでいますが、異なった種類の宿主は捕食の関係になることも多いようです。

トキソプラズマは、マラリアやトリコモナスなどと同じ病原性のある微生物の原虫で、細胞内に寄生し有性生殖や無性生殖によって増殖します。生活環は、主にネコ科の肉食動物が終宿主で、ネズミや鳥類などの捕食者が中間宿主となります。

哺乳類や鳥類といった温血動物が生活環を構成し、中間宿主の間でも感染します。ほぼ世界中に分布するトキソプラズマの遺伝的多様性は低いようです。人間への感染は、野良猫などの糞にカプセルのようなもの(オーシスト、接合子嚢)を放出し、ネコが糞をした公園の砂場で遊ぶ幼児などの口や目、傷口から侵入して感染することも多いようです。

トキソプラズマは、健康で免疫力が通常レベル以上の人が感染しても、風邪に似た症状が出る程度でさほど重篤な症状とはなりませんが、免疫力の落ちている病気中の人や高齢者が感染すると、トキソプラズマ脳炎や肺炎などの重篤な症状を引き起こします。

健康な人がトキソプラズマに感染すると、無症状のまま原虫の保有者となり、先進国の人口の約3分の1、世界人口の約半分が感染したことがあると考えられています。

トキソプラズマが宿主の行動を変えることは、50年ほど前から研究の対象になってきました。例えば感染した中間宿主のネズミは終宿主のネコをあまり怖がらなくなり、捕食されやすくなりますが、最初は感染によって単に行動が鈍ったせいと考えられていました。

その後ラットを使った実験では、トキソプラズマに感染したラットは嫌悪行動(新規刺激)の回避に対する反応が弱く、恐怖を感じにくい傾向がでました。またネコとウサギの臭いを使った実験では、感染したラットは危険なネコの臭いになれやすく、非感染ラットは安全なウサギの臭いに向かう傾向が出ました。

このようにトキソプラズマが宿主の行動を変えることのある仮説によれば、脳の報酬系に影響を与えているのではないかとされています。マウスの実験では、ドーパミンの作動が変化して野外への活動や新規探索行動が減少することが分かっています。

また人間に対しては男性ホルモンの一種であるテストステロンに影響を与えているという研究結果もあるようです。まだ研究途上ですが、トキソプラズマ感染と人間を含めた動物の行動には何らかの関係がありそうな気もします。