内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

抜書的読書法(哲学篇11)― モンテーニュ(四) 十年間の「引きこもり」生活

2015-05-15 05:21:25 | 読游摘録

 モンテーニュは、三十八歳の誕生日をもって一切の公職から引退する。そしてボルドーの所領モンテーニュ村に引きこもる。そこで読書と思索とに集中しようと、小さな塔のような建物を拵えさせ、その中に小礼拝堂、寝室、図書室を設えさせる。
 「私はそこで私の人生の大半の日々を過ごす。一日の時間の多くをそこで過ごす。夜をそこで過ごすことはない。これが私の居場所だ。私はそこで自らの支配者となり、この小さな片隅を、夫婦生活、係累関係、世の人々との付き合いから引き離す。」
 著述と省察と瞑想に相応しい雰囲気を醸成するために、モンテーニュは、自室の白塗りの天井や梁に、黒字で古の賢者たちの言葉を書付けさせる。それらは、主に、寸鉄人を刺す類の短い警句・箴言・断章からなる。
 「僅かなもので生きる、悪には染まらずに」「完全なる自律、讃仰すべき快楽」「私は待つ」「人間、粘土細工」「人が死と呼ぶものが生ではなく、生が死ではないと、誰が知ろう」「天・地・海原、そしてすべてのもの、宇宙のすべてのすべてを前にすれば無」等々。
 文字通りつねに身近にあり、つねに心にかかるこれらの古人の言葉によって、モンテーニュは、日々の思索の着想を得ようと心掛ける。
 ほぼ十年間、モンテーニュはこのような「引きこもり」生活を送る。そのような生活の中で、モンテーニュは、日々古典を読み、多種多様なテーマについて思索を巡らし、『エセー』の執筆を続ける。このような生活そのものがモンテーニュにおける「精神的実践」の形である。