内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

道路から見た日本の歴史 ― 武部健一著『道路の日本史 古代駅路から高速道路へ』

2018-05-24 17:35:16 | 読游摘録

 武部健一著『道路の日本史 古代駅路から高速道路へ』(中公新書、2015年)は、「道路という物言わぬ基幹的なインフラストラクチャを通して日本を見ることによって、日本と道路の双方の歴史」を描き出した、抜群に面白い好著である。
 鉄道・飛行機など様々な交通手段が人類史上最も高度に発達した現代社会にあっても、道路による交通網の整備が最も重要な国家事業の一つであることは、古代と変わりはない。本書は、そのことを古代ローマと古代中国の道路網建設から説き起こし、道路の歴史と日本の政治・経済・文化史とを重ね合わせることで各時代の特異点を浮かび上がらせつつ日本の歴史を古代から現代まで通覧し、最終的には、そこから見えてくる将来の道路行政のあり方にまで説き及ぶ。
 奇を衒うことなく一般読者の蒙を啓く知見に富んだその文章は、著者年来の道路建設者としての豊富な現場経験と道路史家としての数十年の学問的蓄積とに堅固に裏打ちされており、読む者を最初から最後まで飽きさせない。
 著者は、本書の「あとがき」を書いた2015年4月の「桜の散り始める日」の翌月5月に90歳で逝去される。