内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

最近の邦画をよく観る理由 ―『万引き家族』のことなど

2019-04-18 23:59:59 | 雑感

 十年ほど前から映画をわりとよく観るようになった。といっても、映画館に足を運ぶことはほとんどない。主に家の大型テレビで観る。きっかけは一時帰国の行き帰りの飛行機の中で観た映画だった。約十二時間も機内にいる間、本を読もうと思ってもそう長い時間は読む気になれない。そこで仕方なしに映画を観るようになった。その中にとてもいい作品があった。最初に観たのがどの映画だったかはもう忘れてしまったけれど。
 ここ数年はほとんど邦画しか観ない。洋画に興味がないのではなく、そこまで関心を広げると映画を観るのに忙しくなりすぎることを恐れてのことだ。毎日読書しているのに、推理小説には絶対に手を出さないのも同じ理由からだ。面白すぎで夢中になること必定と警戒しているのだ。
 邦画に話を限っても、いわゆる古典的な名画はほとんど観ない。観るのは、比較的最近公開された映画が圧倒的に多い。それは、映画を通じて日本の現在の「空気」を感じたいということなのだろうと自分で思う。だから、ストーリーはつまらない映画でも街の描写や風景や小道具など、妙なところに興味をもったりする。
 それと、教材探しという「下心」もある。現代日本社会あるいは日本語について、何らかの話題への導入あるいはその例示として、映画はとても役に立つ。これは映画そのものの鑑賞を目的としていないから、映画に対してはちょっと失礼なことではあるけれど、授業で取り上げたことがきっかけで学生たちがその映画そのものに関心を持ち、後に全編観たということもわりとよくあり、その意味では「宣伝」にはなっているから、寛恕を乞いたい。
 気に入ると、何度も観る。しかもかなり集中して何度も観る。一度観ただけではわからないことや見逃している細部も多いから、観るたびに発見がある。時をおいてまた観ると、かつての見落としに気づいたり、自分の観方がかわっていることに気づいたりもする。
 今月に入って繰り返し観ているのは、『万引き家族』。昨夏、一時帰国中に映画館で一回だけ観た。フランスでも昨年十二月に公開されたが、こちらでは観ていない。今月初めに DVD と Blu-ray が日本国内で発売され、日本の家族にすぐに送ってもらった。八日朝に届いて、その日の授業でさっそく使った。その日以降、すでに家で三回観ているが、まだまだ見落としている細部がいろいろある。よくできていると評判のパンフレットをアマゾンで注文した。やはり今月、是枝監督自身による小説化作品が文庫本で刊行された(単行本は昨年五月に刊行されている)。これも近いうちに入手したい。