遠い昔、受験生だった頃、古典の参考書としては、小西甚一の『古文研究法』(洛陽社 初版1955年 改訂版1965年)一冊を繰り返し読んだ。古語辞典は数冊持っていたが、同じく小西甚一の『基本古語辞典』(大修館書店 初版1966年 新装版2011年)を最も頻用した。大学に入ってからもこれら二著はずっと書架に並べてあった。もう記憶が曖昧になってしまったが、1996年にフランスに留学するときにその他の多くの本とともに売り払ってしまったのだと思う。2011年に『基本古語辞典』の新装版が出るとすぐに買った。2015年に本書が「ちくま学芸文庫」として復刊されたときも、すぐに買った。読み直していると、受験勉強のころの自分を取り巻く空気が蘇ってきて、懐かしくてたまらなかった。以来、座右の書として書斎の机に向かって右手の本棚の座ったまま手の届くところに並べてある。
今年に入り、五月に佐伯梅友著『古文読解のための文法』(三省堂 1988年)がやはり「ちくま学芸文庫」として復刊された。この夏の一時帰国時に購入した。本書の出版は受験生時代以後であるから、「佐伯文法」の名は知っていても、同書を手にとって見ることは今回の復刊までなかった。この本も以来座右の書の一冊に加わった。
そして、今日、ちくま学芸文庫の九月の新刊の一冊、松尾聰著『改訂増補 古文解釈のための国文法入門』を購入した。初版は1952年、改訂増補版が1973年、研究社刊。文庫版の小田勝の解説はこう結ばれている。
松尾聰、小西甚一、山岸徳平、佐伯梅友、今泉忠義らが活躍していた時代 まだ国文学と国語学とはぴったりと寄り添っていた。本書はそんな時代の空気を今に伝えている。両者が完全に没交渉になり果てた今、国文学と国語学との協同ということについて、もう一度反省する必要もあるのではないだろうか。そんな思いも込めて、初学の学習者にも、プロの専門家にも有意義な本書の文庫化を心から喜びたい。
この休み中、そんな時代の空気を、私もまた、これら碩学の名著をじっくりと読みながら、深々と胸に吸い込みたい。