内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

「『おくりびと』についての学生たちの優秀感想文集」

2019-12-11 08:51:03 | 講義の余白から

 先々週と先週の二回に分けて、学生たちに映画『おくりびと』全編を鑑賞させた。作品のよりよい理解のための語彙表を作成し、あらかじめパワーポイントで一語一語について説明してから鑑賞させた。
 私が所有しているフランスで購入したDVDは、フランス語の字幕をOFFにすることができず、日本語の聴解に集中させるという授業の目的にとっては不都合な点もあったのだが、学生たちにしてみれば、作品の内容が語学的障害によるストレスなしに展開に沿ってよりよく理解できるという利点もあった。
 観たことがある学生がいなかったのは、皆同じ条件で観られるという点で、むしろ幸いであった。映画を観る前に、映画の鑑賞を通じて考えてほしいテーマとして、死とは何か、死者を送るとはどういうことなのか、死者と生者との繋がり、職業の貴賤、天職、家族の絆などを挙げておいた。彼らがこれまでこの映画を観ようと思わなかった理由の一つは、まさにこれらの「重い」テーマが扱われているということにあっただろう(他にいくらでも「軽く」「楽しく」「面白い」日本映画はあるのだから)。
 主題が主題だけに、この映画に対して嫌悪感あるいは拒絶反応を示す学生がいるかも知れないと若干危惧された。ところが、それは杞憂に終わった。映画の冒頭から、こちらの予想以上に学生たちは映画に惹きつけられていた。ほとんど全員がこの映画を観ることができてよかったと感想に記していることからもそれは裏づけられる。
 全部観終わった後、感想を自由に書いて今週月曜日までに送るようにと課題を出した。28人が課題を提出してくれた。その中には、よくそこまで考えてくれたねと喝采を送りたくなるようなかなり長文の作品分析もいくつかあったのだが、ここには、短いがよく書けている感想文四作を掲載する。多少私が手を入れてはいるが、基本的に学生たち自身が書いた日本語文である。

 最初は、何を期待すればよいかわかりませんでした。映画は悲しくて暗いものになると思いました。ところが、最後には、私はこの映画がとても感動的だと感じました。それは死とそのタブーに甘さと静けさに満ちた新しい外観をもたらす映画だったからです。
 「 おくりびと 」は、死と喪の両方のテーマを扱っていますが、それでも私たちを笑わせることができます。
 この映画はとても詩的だと思います。主役は観客に納棺の別の側面を見せてくれます。納官の場面は繊細で、優雅です。
 死を恐れているので、私はそれについて多くの映画を見ません。 しかし、この映画は、死はドラマではないことを私に実感させました。
 死がなければ、人生は人生ではありません。

 『おくりびと』という映画は、独特の方法で死を取り扱っていると思う。喪を通じて死について話している。しかし、慰めようのない喪ではない。反対に、この映画は、生きている人々と彼らの人生に与える意義を中心している。私の考えでは、納棺の儀を通じて見ることができるこの面が幾分慰めを与えてくれる。
 シナリオは大悟を中心としているが、登場人物それぞれに魅力がある。各々のキャラクターが死亡や喪と特別な関係にある。例えば、佐々木さんは亡くなった妻が恋しいことや、銭湯の常連客が亡くなった銭湯の主を火葬にすることなどである。このような背景は、ストーリーやキャラクターをより写実的なものにしていると思う。また、時に微妙で、時に微妙ではない映画のユーモアは、悲しいショットの間に息をつかせてくれる要素である。
 結論としては、私は、『おくりびと』という映画のおかげで、日本の喪と関係がある儀式についての仕方をよく勉強することができた。だからこそ、面白い映画だと思うのである。

 この映画は、テーマも、久石譲の音楽もとても美しくて、どこか寂しかったと思いますが、一番興味深い所はタイトルにあると思います。私はこのタイトルがとても好きです。納棺師の大吾さんは死んだ人を美しくし、まさしくただ眠っているように見せ、その人を見送る人でありながら、それ以上にその人の家族も見送れるようにする役目を持っています。つまり、送る人でもありながら、送るのを手伝う人でもあるのだと思います。最後のシーンでそれがよく分かります。自分の家族であるお父さんをきちんと送るために、納棺師の役割を果たします。このタイトルの深い意味がフランス語や英語の訳で無くなってしまう所が残念です。「Departures」は旅立つ人達の事を示していますが、この映画で一番大事な点は残された人達の思いだと思うので、この訳は良くないと私は思います。

 「おくりびと」という映画は型破りのテーマを取り扱っています。それだから、これまでに見たことのないタイプの日本映画でした。生についての考えをより良く表現するために納棺師の観点や死のさまざまな在り方を取り上げています。最近自分の親戚の人が亡くなりましたから、喪を描くシーンの間、特に感動しました。葬儀の場面は芸術品のように撮影されています。他方、映画全体を軽くするユーモアの要素が各所に散りばめられていて、それが話の展開についていきやすくしてくれました。

 上掲の四つの感想文はすべて女子学生によるものである。女子学生が登録学生32名中23名と七割を超えているから、「多勢に無勢」ということはあるが、男子学生諸君にも奮起を促したい。