ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

中国憲法評解(連載第8回)

2015-03-06 | 〆中国憲法評解

第四二条

1 中華人民共和国公民は、労働の権利及び義務を有する。

2 国家は、各種の方途を通じて、就業の条件を作り出し、労働保護を強化し、労働条件を改善し、かつ、生産の発展を基礎として、労働報酬及び福祉待遇を引き上げていく。

3 労働は、労働能力を持つ全ての公民の栄光ある責務である。国有企業並びに都市及び農村の集団経済組織の勤労者は、みな国家の主人公としての態度をもって自己の労働に取り組むべきである。国家は、社会主義的労働競争を提唱し、労働模範と先進活動家を報奨する。国家は、公民が義務労働に従事することを提唱する。

4 国家は、就業前の公民に対して、必要な職業訓練を行う。

 本条から第五〇条までは、おおむね社会権に関わる権利条項がまとめられている。筆頭の本条は、労働基本権に関する規定である。労働者階級主体の国家を公称する旧ソ連型社会主義体制では定番的な構成である。
 ただ、第二項以下、国家主導での労働条件確保という側面が強く、第三項では労働の義務性が強調されるとともに、労働規律強化のための「社会主義的労働競争」に言及されているのが特徴である。さらに第四項では、就業前の職業訓練が国家の任務として明記されている。

第四三条

1 中華人民共和国の勤労者は、休息の権利を有する。

2 国家は、勤労者の休息及び休養のための施設を拡充し、職員・労働者の就業時間及び休暇制度を定める

 前条の労働の権利と対になる休息の権利の規定である。理念にとどまらず、第二項で国家が休息の権利の確保のために施設及び法制度の両面でなすべき任務が明記されている。

第四四条

国家は、法律の定めるところにより、企業及び事業組織の職員・労働者並びに国家公務員について定年制を実施する。定年退職者の生活は、国家及び社会によって保障される。

 定年制が憲法上明記されている珍しい例である。定年制の詳細は法律に委ねられている。

第四五条

1 中華人民共和国公民は、老齢、疾病又は労働能力喪失の場合に、国家及び社会から物質的援助を受ける権利を有する。国家は、公民がこれらの権利を享受するのに必要な社会保険、社会救済及び医療衛生事業を発展させる。

2 国家及び社会は、傷病軍人の生活を保障し、殉職者の遺族を救済し、軍人の家族を優待する。

3 国家及び社会は、盲聾唖その他身体障碍の公民の仕事、生活及び教育について按排し、援助する。

 生存権の規定であるが、まず生存権を規定した後に労働の権利を規定する日本国憲法とは反対に、労働の権利の後に生存権の規定が来るのは、まず国家が国民の最低限度生活を保障したうえで、国民に労働の権利を保障する福祉国家ではなく、労働を前提として、一定の場合に国家が公民の生存を確保するという労働国家体制(旧ソ連と同様)を採ることの現れと読める。なお第二項で特に傷病軍人、戦没軍人家族の生活保障を明記しているのは、重要な国家セクターである軍を重視する政策の反映である。

第四六条

1 中華人民共和国公民は、教育を受ける権利及び義務を有する。

2 国家は、青年、少年及び児童を育成して、彼らの品性、知力及び体位の全面的な発展を図る。

 教育を受ける権利の規定である。ごく簡単な規定であり、むしろ第一章総則で国家が教育に果たす役割をより詳細に規定していたところである。

第四七条

中華人民共和国公民は、科学研究、文学・芸術創作その他の文化活動を行う自由を有する。国家は、教育、科学、技術、文学、芸術その他の文化事業に従事する公民の、人民に有益な創造的活動を奨励し、援助する。

 学術・芸術活動の自由を保障する規定であるが、これについても、第一章総則に具体的な規定が存在した。第二文で、国家は「人民に有益な創造的活動を奨励し、援助する」とある反面、人民に有害とみなされる創造的活動は禁止、抑圧されることが示唆される。

第四八条

1 中華人民共和国の女性は、政治、経済、文化、社会、家庭その他の各生活分野で、男性と平等の権利を享有する。

2 国家は、女性の権利及び利益を保護し、男女の同一労働同一報酬を実行し、女性幹部を育成し、及び登用する。

 ジェンダー平等に関する進歩的な規定である。ただし、国連開発計画が公表した中国のジェンダー不平等指数は2013年度で日本(25位)より若干低い37位と、必ずしも高くなく、憲法の目標が達成されているとは言い難い。

第四九条

1 婚姻、家族、母親及び児童は、国家の保護を受ける。

2 夫婦は、双方ともに計画出産を実行する義務を負う。

3 父母は、未成年の子女を扶養・教育する義務を負い、成年の子女は、父母を扶養・援助する義務を負う。

4 婚姻の自由に対する侵害を禁止し、老人、女性及び児童に対する虐待を禁止する。

 家族・婚姻にまつわる権利・義務のまとめ規定である。第二項で、計画出産が夫婦双方の義務と明記されるのは、人口調節が国家的課題である中国ならではのことである。
 第三項で親子間での相互扶養義務という保守的な家族観が規定される一方、第四項では婚姻の自由という近代的家族観が併記されるなど、新旧価値観の混在が見られる。第四項で弱者への虐待が憲法上禁止されているのも、特徴的である。

第五〇条

中華人民共和国は、華僑の正当な権利及び利益を保護し、帰国華僑及び国内に居住する華僑の家族の適法な権利及び利益を保護する。

 華僑の権利が憲法上特別に明記されるのは、世界各国に移民を送り出し続けてきた中国の歴史を反映したものである。

コメント