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中国憲法評解(連載第10回)

2015-03-19 | 〆中国憲法評解

第三章 国家機構

 第三章は、憲法の中核を成す国家機構に関する章である。中国の国家機構は、ブルジョワ民主主義で定番の三権分立制ではなく、人民代表大会を軸とするソヴィエト制であるが、旧ソ連と同様の共産党一党支配体制の下、事実上は立法・行政・軍事・司法の部門的機能分化がなされている。ただ、諸国の憲法のように、各部門ごとに章を立て起こすのではなく、全部門を国家機構として本章に包括している点が特徴的である。ここには、全人代を全権力の源泉とみなす一元的な権力機構の構想が横たわっているようにも見える。

第一節 全国人民代表大会

第五七条

全国人民代表大会は、最高の国家権力機関である。その常設機関は、全国人民代表大会常務委員会である。

 全国人民代表大会(以下、全人代)は、旧ソ連のソヴィエト最高会議を範例とする最高権力機関である。言わば、中国版ソヴィエトであるが、共産党支配体制下では、共産党の施政方針の追認機関と化す点でも同様の傾向を持つ。ただし、連邦制を反映して二院制を採ったソ連最高会議とは異なり、中央集権制の中国全人代は一院制である。

第五八条

全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会は、国家の立法権を行使する。

 全人代の最大任務は、立法権の行使である。この点では、政治的美称とはいえ、「ソヴィエト連邦の管轄に属するすべての問題を解決する権限をもつ」と包括的な全権機関として規定されていたソ連最高会議に比べ、中国全人代はブルジョワ議会的な立法機関としての性格が強まっていると言える。

第五九条

1 全国人民代表大会は省、自治区、直轄市、特別行政区、軍隊の選出する代表によって構成される。いずれの少数民族も、全て適当な数の代表を持つべきである。

2 全国人民代表大会代表の選挙は、全国人民代表大会常務委員会がこれを主宰する。

3 全国人民代表大会代表の定数及びその選出方法は、法律でこれを定める。

 全人代の代表(代議員)は、選挙区でなく、省以下の地方行政区および軍、さらに公認少数民族を単位として選出される。その構成からいくと、旧ソ連最高会議の第二院民族会議に近い。軍が独自に代表を送り込めるのは、抗日及びその後の建国革命で軍(人民解放軍)の果たした歴史的な役割の大いさから、軍の自立性が認められていることを示す。
 全人代代表の選出方法は第三項で法律に委ねられており、直接選挙は憲法上保障されていない。従って、直接選挙制を採用することも可能ではあるが、現行法は上記選出単位ごとの間接選挙によっている。

第六〇条

1 全国人民代表大会の毎期の任期は、五年とする。

2 全国人民代表大会の任期満了二か月月前に、全国人民代表大会常務委員会は、次期全国人民代表大会の選挙を完了させなければならない。選挙を行うことのできない非常事態が生じた場合は、全国人民代表大会常務委員会は、その全構成員の三分の二以上の賛成で、選挙を延期し、当期全国人民代表大会の任期を延長することができる。非常事態の終息後一年内に、次期全国人民代表大会代表の選挙を完了させなければならない。

 全人代(代議員)の五年任期、任期満了二か月前の選挙という原則的なプロセスは、旧ソ連憲法の例にならったものである。前条第二項とあわせ、全人代の選挙は、政府(国務院)ではなく、全人代の幹部会である常務委員会が自律的に主宰する。

第六一条

1 全国人民代表大会の会議は、毎年一回開き、全国人民代表大会常務委員会がこれを招集する。全国人民代表大会常務委員会が必要と認めた場合、又は五分の一以上の全国人民代表大会代表が提議した場合は、全国人民代表大会の会議を臨時に招集することができる。

2 全国人民代表大会の会議が開かれるときは、議長団が選挙されて、会議を主催する。

 旧ソ連最高会議の会期は年二回であったが、中国全人代は年一回とされる。これは大人口のため代議員も多数に上る(定数は最大3千人)中国では、年一回開催が現実的なためかと思われる。

第六二条

全国人民代表大会は、次の職権を行使する。

一 憲法を改正すること。
二 憲法の実施を監督すること。
三 刑事、民事、国家機構その他に関する基本的法律を制定し、及びこれを改正すること。
四 中華人民共和国主席及び副主席を選挙すること。
五 中華人民共和国主席の指名に基づいて、国務院総理を選定し、並びに国務院総理の指名に基づいて、国務院の副総理、国務委員、各部部長、各委員会主任、会計検査長及び秘書長を選定すること
六 中央軍事委員会主席を選挙し、及び中央軍事委員会主席の指名に基づいて、中央軍事委員会のその他の構成員を選定すること。
七 最高人民法院院長を選挙すること。
八 最高人民検察院検察長を選挙すること。
九 国民経済・社会発展計画及びその執行状況の報告を、審査及び承認すること。
一〇 国家予算及びその執行状況の報告を、審査及び承認すること。
一一 全国人民代表大会常務委員会の不適当な決定を改め、又は取り消すこと。
一二 省、自治区及び直轄市の設置を承認すること。
一三 特別行政区の設立及びその制度を決定すること。
一四 戦争と平和の問題を決定すること。
一五 最高の国家権力機関が行使すべきその他の職権。

 本条は全人代の職権リストである。筆頭に憲法改正が来ていることからも、制憲機関としての役割とそれを基盤とする立法機関としての役割が重視されていることがわかる。

第六三条

全国人民代表大会は次の各号に掲げる者を罷免する権限を有する。

一 中華人民共和国主席及び副主席
二 国務院総理、副総理、国務委員、各部部長、各委員会主任、会計検査長及び秘書長
三 中央軍事委員会主席及び中央軍事委員会その他の構成員
四 最高人民法院院長
五 最高人民検察院検察長

 全人代は、国家主席以下、前条により任命権を持つ行政・軍事・司法の要職者を罷免する権限も持つ。罷免権を前条から独立して規定しているのは、そうしたリコール機関としての役割を明確にするためと思われる。

第六四条

1 この憲法の改正は、全国人民代表大会常務委員会又は五分の一以上の全国人民代表大会代表がこれを提議し、かつ、全国人民代表大会が全代表の三分の二以上の賛成によって、これを採択する。

2 法律その他の議案は、全国人民代表大会が全代表の過半数の賛成によって、これを採択する。

 憲法改正案及び法律その他の議案の採決に関する規定である。最高法規である憲法の改正については、発議・表決ともに厳格な要件が課せられている。

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