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スウェーデン憲法読解(連載第21回)

2015-03-13 | 〆スウェーデン憲法読解

第一〇章 国際関係

 本章は、条約を中心とした国際関係(外交権)に関する詳細規定をまとめた章である。スウェーデンに限ったことではないが、スウェーデンも1995年の欧州連合加盟以来、国際関係が複雑化しており、国家主権との関係上憲法的な整理の必要が生じ、国際関係に関する規定が増補されている。

条約を締結する政府の権限

第一条

他の国又は国際機関との間の条約は、政府により締結される。

第二条

政府は、議会又は外交評議会の協力を要求しない問題に関する条約を締結することを行政機関に委任することができる。

 条約の締結権を原則的に政府が持つのは、ごく標準的な規定である。なお、第二条にある外交評議会とは、第一二条で規定される国家元首を議長とする正式な外交審議機関である。

第三条

1 国を拘束する条約で、次の各号に掲げるものを政府が締結する前には、議会による批准が必要とされる。

一 法律が改正され、若しくは廃止されること又は新たな法律が制定されることを前提としている条約

二 その他議会が議決すべき問題に該当する条約

2 第一項第一号又は第二号に規定する議会の議決が特別の方法に従って行われるべき場合には、条約の批准に際しても同様の方法が採られなければならない。

3 その他の場合においても、国を拘束する条約が重大な意義を有する場合には、当該条約が締結される前に議会による批准が必要とされる。ただし、国益上必要とされる場合には、政府は、議会による批准を断念することができる。その際、政府は、代替措置として、条約を締結する前に、外交評議会と協議しなければならない。

第四条

第三条に規定する条約で、欧州連合における協力の枠組み内で締結されるものは、当該条約が最終段階のものでない場合であっても、議会がこれを批准することができる。

 条約の批准を全面的に政府の権限とせず、重要性の高い条約については議会の権限とするのは、議会を重視するスウェーデンの特質である。

他の国際的義務及び条約破棄

第五条

第一条から第四条までの規定は、国に対する条約以外の国際的義務及び条約又は国際的義務の破棄にも適用される。

欧州連合の協力の枠内の議決権の委譲

第六条

1 欧州連合における協力の枠組みの範囲内で、議会は、国家体制の根幹に関わらない議決権を委譲することができる。当該委譲は、それが関係する協力の分野における権利及び自由の保護が統治法並びに人権及び基本的自由の保護のための欧州条約による保護に対応していることを前提とする。

2 議会は、投票者の四分の三以上で、かつ、議員の過半数が賛成票を投じた場合に、当該委譲について議決することができる。この議会の議決は、基本法の制定に適用される方法により行うこともできる。委譲は、第三条の規定に基づく議会による条約の批准の後でなければ議決することができない。

 欧州連合加盟に伴って生じた議会の議決権委譲に関する規定である。議決権委譲は、国家主権の一部譲渡に等しいため、憲法上慎重な条件が課せられる。委譲できるのは国家体制の根幹に関わらない限度で、かつ厳正な手続的条件を要する。 

欧州連合の協力の枠外の議決権の委譲

第七条

1 第六条の規定とは別の場合に、この統治法に直接根拠を有し、法令の規定が定める議決権、国家資産の利用、司法若しくは行政の職務又は条約の締結若しくは破棄は、国が参加する、若しくは参加する予定の平和的協力のための国際機関又は国際的な裁判所に限定された範囲で委譲することができる。

2 基本法の制定、改正若しくは廃止、議会法若しくは議会選挙法に関する問題又は第二章に規定する自由及び権利の制限に関する問題についての議決権は、第一項の規定に基づき、委譲されてはならない。

3 議会は、第六条第二項に規定する方法により、委譲について議決する。

第八条

1 この統治法に直接根拠を有しない司法又は行政の職務は、第六条とは別の場合に、議会の議決により、他の国、国際機関又は外国の若しくは国際的組織若しくは団体に委譲することができる。議会が、法律により、政府又は他の機関に対し、特別な場合に当該委譲について決定する権限を付与することができる。

2 職務が機関の権限行使に関わる場合には、議会は、第六条第二項に規定する方法により、委譲又は権限付与について議決する。

 第七条と第八条は、国際連合など欧州連合以外の外国や国際機関等への議決権や司法、行政上の職務権限の委譲について定めている。ただし、基本法や議会法、基本権に関わる問題については委譲できない。

条約の将来の改正

第九条

条約がスウェーデン法として効力を有するべきであると規定される場合には、議会は、国を拘束する将来の条約の改正もスウェーデン法として効力を有するべきであると議決することができる。当該議決は、限定された範囲の将来の改正のみを予定することができる。当該議決は、第六条第二項に規定する方法によりなされる。

欧州連合の協力に関する情報及び協議に対する議会の権限

第一〇条

政府は、欧州連合における協力の枠組み内で生じていることについて、継続的に情報提供し、議会により選出された機関と協議しなければならない。情報提供及び協議の義務の詳細は、議会法で定める。

外交評議会

第一一条

政府は、国にとって重要性を有する可能性のある外交政策の状況について継続的に外交評議会に報告し、必要な頻度、当該政策について評議会と協議しなければならない。重要度の高い外交問題については、政府は、可能な場合には、決定前に当該評議会と協議する。

第一二条

1 外交評議会は、議会議長及び議会内部から選挙される他の九人の評議員により構成される。外交評議会の構成の詳細については、議会法で定める。

2 外交評議会は、政府の招集により集会する。政府は、五人以上の評議員からある一定の問題について協議するよう要求があった場合には、評議会を招集する義務を負う。評議会の集会の際の議長は、国家元首であり、国家元首に支障があるときは、総理大臣である。

3 外交評議会の評議員及び評議会と関係を有する他の者は、その者がその権限で知り得たことについて、第三者に報告する際に、注意しなければならない。議長は、無条件の守秘義務を決定することができる。

 外交問題の審議機関である外交評議会は、スウェーデン独自の制度である。議長は原則として国家元首(君主)が務める点で、歴史的に君主が有した外交権の名残でもあるが、他の評議員は国会議長をはじめとする議員である点において、議会による外交統制という民主的な意義をも有するユニークな制度である。

国家機関の報告義務

第一三条

外交問題を所掌する省庁の長は、他の国又は国際機関との関係にとって重要な問題が国家機関の下に生じた場合には、報告を受けなければならない。

国際刑事裁判所

第一四条

第二章第七条、第四章第一二条、第五章第八条、第一一章第八条及び第一三章第三条の規定は、国際刑事裁判所に関するローマ規程又は他の国際的な刑事裁判所との関係を理由とするスウェーデンの義務の履行を妨げない。

 人道犯罪を裁く国際的な刑事裁判所との関係では、君主の訴追免除特権をはじめ、憲法上の所定の制約は排除される。国際人道裁判に関する限り、部分的に国際法を憲法に優位させる先進的な規定である。

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